自己破産の手続き中にギャンブルすると免責が下りない?

自己破産の申立てを裁判所に行った場合、裁判所による申立書の審査や裁判官の審問、破産管財人による調査など、様々な手続きが実施されます。

もちろん、自己破産の手続きは刑事裁判ではありませんので、自己破産の申立人が裁判所に身柄を拘束されるわけではありませんが、その自己破産の手続きが進められる一定期間は裁判所の指示や要請にしたがって随時対応することが求められるのは避けられないのが現実です。

そうなると、自己破産の手続き中にどのような生活を送ればよいかという点が気になるわけですが、たとえば自己破産の手続き中にパチンコやスロット、競馬競輪競艇などの公営ギャンブルをしてしまうと何らかのペナルティーを受けてしまうのでしょうか?

自己破産の手続き中にギャンブルなどに手を出すと免責が許可されなくなったりするものなのでしょうか?

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自己破産の手続き中のギャンブル等が直接、自己破産の手続きに影響を与えることはないが…

誤解を恐れずにいうと、自己破産の手続き中にパチンコやスロット、競馬競輪競艇など公営ギャンブルを利用すること自体は、自己破産の手続きに直接には影響を及ぼさないものと考えられます。

なぜなら、自己破産の手続きはその「開始決定が出された日の前日」までに発生した債務(借金)と資産を清算する手続きになりますので、「開始決定が出された日以降」の生活実態にどのような行為があったとしても、その「開始決定が出された日以降」に発生した事情は、その自己破産の手続きに直接は影響を及ぼさないからです。

自己破産の手続きでは、パチンコやスロット、競馬競輪競艇などいわゆる「射幸行為」と呼ばれる行為があった場合には免責不許可事由や詐欺破産罪の問題を生じさせますが、それはその「開始決定が出された日の前日」までに行われた射幸行為の有無が問題にされるだけで、「開始決定が出された日以降」の事情は全く切り離されて考えられることになります。

ですから、自己破産の「開始決定が出された日以降」の裁判所や破産管財人の調査が行われている「自己破産の手続き中」の期間に公営ギャンブル等を利用したとしても、そのこと自体は自己破産の手続きに直接影響を与えることはないと考えられるのです。

ただし、裁判官や破産管財人の心証は当然悪くなる

このように、自己破産の手続きはあくまでも自己破産の「開始決定が出された日の前日」までに発生した債務(借金)と資産を清算する手続きで「開始決定が出された日以降」に生じる事情は一切その自己破産の手続きと切り離して考えるのが原則ですから、極端にいえば「開始決定が出された日以降」に射幸行為を行ったとしても自己破産の手続きに直接は影響しないといえます。

しかし、これはあくまでも自己破産の手続きを形式的に考えた場合の話であって、実際の手続きの実態を考えた場合には、自己破産の手続きに影響が生じると考えたほうがよさそうです。

なぜなら、自己破産の手続きが開始された以降も裁判官との審問や破産管財人との面会、その他の調査などの段階で生活状況が調査されることもありますので、その際に自己破産の申し立て後の射幸行為が知られてしまうこともありうるからです。

裁判官の審問や破産管財人の調査では、過去の射幸行為の有無は必ず聞かれますし、過去に射幸行為の事実があれば「現在は止めているか」「常習性はないか」など厳しく質問されるのが通常です。

仮に自己破産の手続き中もギャンブルに手を出していたことが判明した場合には、射幸行為を辞めたくても止めることができない精神疾患的(いわゆるギャンブル中毒)な疑いも生じることから、医療的な対処の必要性を判断するために裁判官や破産管財人としても厳しく確認する必要があるからです。

もちろん、そこで「ギャンブルはもうやってませんよ」とウソの申告をすることもできないわけではありませんが、もしそこで嘘の申告をしてしまうと裁判所に虚偽の申告をしたとか破産管財人の業務を妨害したということで詐欺破産罪の責任を問われてしまう危険性も生じるのでそれは事実上不可能です。

そうなると、裁判官や破産管財人の質問には正直に答えなければならなくなりますから、自己破産の手続き中も射幸行為に手を出していた場合には、その事実は裁判所や破産管財人に知られることは避けられないといえるでしょう。

自己破産の手続き中にギャンブル等の射幸行為への出費が知られてしまえば当然、裁判官や破産管財人から「自己破産の前から射幸行為に手を出している」と思われるのは避けられませんので、裁判官や破産管財人から「こいつは自己破産の申し立て前からやってるな」とか「自己破産の手続きに入った後にも止めないというのは相当な常習者だな」と判断されて、裁判官や破産管財人の心証が悪くなってしまいます。

裁判官や破産管財人の心証が悪くなれば当然、自己破産の手続きの調査や指導はより厳しくなりますし、過去の生活を厳しく詮索されて過去の射幸行為までも問題となり、通常ではさほど問題にされない射幸行為であっても「常習性がある」とか「反省の念がない」と判断されて、免責手続きや裁判官の裁量免責に大きな影響を与えることも十分に考えられるでしょう。

このように、自己破産の申し立てをした後まで射幸行為を継続した場合には、その事実が裁判官や破産管財人に知られてしまうことによって自己破産の手続きに事実上の負の影響を与えることは避けられないといえるのです。

最後に

以上のように、自己破産の手続き中に射幸行為に手を出すことは、それが裁判官や破産管財人に知られてしまうことが避けられない事情があること、また、裁判官や破産管財人に知られてしまうことによって自己破産の免責(裁量免責も含む)が受けられなくなってしまう危険性もあることを踏まえれば、絶対にやってはいけない行為といえます。

もっとも、そもそも射幸行為に手を出したこと自体が借金の原因であったのであれば、自己破産の手続きを始める時点でキッパリと足を洗うのが筋ですし、自己破産を申し立てた後もギャンブルを継続すること自体論外なわけですから、自己破産の申立てをした後に「ギャンブルしても大丈夫かな」と考えること自体が愚かなことであることに早々に気づくべきと言えます。