生活保護受給者が借金の整理を行う場合には、自己破産で処理するしかありません。
なぜなら、個人再生や特定調停、任意整理といった自己破産以外の債務整理手続きでは残りの残債務について3年程度の分割弁済が必要になりますが、生活保護の支給を受けている場合、その人は自分自身で健康で文化的な最低限度の生活を営めるだけの収入を得ることができないことを理由に国からその補てんを受けていることになりますので、返済原資を確保することができないからです。
もっとも、生活保護を受けているとはいっても、毎月の生活費にある程度余裕が出る場合もあるでしょうから、生活保護を受給している人の中には、その余裕ができた分だけでも返済に回したいと思ってしまう人もいるのが現実です。
借金を抱えた人が生活保護を受けるようになった場合には返済原資がないということになりますから、債権者が借金の免除でもしてくれない限り自己破産でしか解決することはできません。
しかし、生活保護で支給された生活費等を切り詰めれば自己破産することなく返済ができるとしたら、多くの人は生活保護費をやりくりして返済を継続することでしょう。
では、このように生活保護を受けている人が、生活保護費をやりくりして借金を返済することは認められるのでしょうか?
生活保護受給者が借金を返済することはできない
結論からいうと、生活保護受給者が借金を返済することは認められません。
なぜなら、生活保護を受給しているにもかかわらず、その受給した生活保護費を返済原資として借金を返済してしまうと、「国」が私人の借金を立替払いしてしまうことになってしまうからです。
生活保護費は国庫から支給されますので、その財源は国民の税金です。
その税金を財源として支給される生活保護費を借金の返済に充てるということは、突き詰めて考えると「国」が私人間の借金の返済を肩代わりしているのと同じ状況に違いありません。
ですから、生活保護を受給している人が、その支給された生活保護費を借金の返済に充てることは認められないのです。
受給している生活保護が「医療扶助」など現物支給の場合であっても借金の返済をすることはできない
前述したように、生活保護を受給している場合には、その受給している生活保護費を返済原資としてその借金の返済をすることは認められません。
この点、支給を受けているのが「生活扶助」ではなく、医療機関に直接支給される「医療扶助」などである場合には借金の返済が認められるのではないか、という疑問が生じます。
生活保護では、「食費」や「被服費」「光熱費」などの生活費に充てるために支給される『生活扶助』、「アパート等の賃貸住宅」など住居費に充てるためにその実費が支給される『住宅扶助』、「義務教育を受けるために必要な学用品」を購入するために支給される『教育扶助』、「医療」を受けるために直接医療機関に支払われる『医療扶助』など、様々な種類の支給が用意されていますが、これら生活保護のうち「医療扶助」は医療機関に直接支給されることになっており、生活保護受給者本人に保護費が支給されるわけではありません。
そのため、「医療扶助」だけを受けている場合では、生活保護を受けているとはいっても、その支給を受けた生活保護費が返済原資に充当されることはないと考えられるため、借金の返済を認めても良いようにも思えるからです。
たとえば、毎月のパート収入が8万円、毎月の生活費が8万円で生活している人が生活保護を申請し、生活保護のうち「医療扶助」だけの支給を受けている場合において、毎月の生活費をやりくりして6万円まで節約し、余剰金として捻出した2万円を借金の返済に充てるような場合です。
このような場合では、たとえ借金の返済をしたとしても、その返済原資は自分が働いたパート収入から捻出されており、支給される生活保護費は全額医療機関に直接支給されて自分は一円も受け取っていないわけですから、「支給を受けた生活保護費」を借金の返済に充てることにはならないとも思います。
しかし、このような場合であっても、仮に生活保護費の申請をしていなかったとしたら、家計をやりくりして捻出した2万円は医療費として出費していたはずであって、返済に回す余裕はないはずです。
そうであれば、生活保護費を受給している以上、借金の返済に充てた2万円は「本来払わなければならなかったであろう医療費を払わなくて良くなったことによって生じた余剰金」にずぎず、「家計をやりくりして捻出した余剰金」とは言えないことになるでしょう。
このように、仮に実際に受給しているのが『生活扶助』など実際に現金が支給される生活保護ではなく、『医療扶助』などの現物支給にあたる生活保護であったとしても、生活保護を受給している以上は国から生活の援助を受けていることになりますから、生活保護の支給を受けている間は一切借金の返済は認められないということになります。
最後に
以上のように、生活保護を受給している場合には、例えその受給しているのが医療扶助など直接現金の給付を受けていない場合であっても、借金の返済は一切行うことができません。
そのため、もし生活保護受給者が借金を抱えている場合には自己破産を申し立てるしかないのが現実です。
また、仮に友人や親せきからの借金がある場合には、友人や親せきに事情を説明して借金の免除を受けるのが理想的ですが、友人や親せきが借金の免除に応じてくれない場合には、自己破産で処理することも考える必要があります。
どうしても自己破産したくない場合には、早急に仕事を見つけて自分の収入で余裕を持った生活ができるようにしたうえで生活保護の受給を取り止めて自分の収入から返済するしかありませんので注意が必要でしょう。