任意整理とは、弁護士や司法書士が債務者の代理人となって交渉し、債権者との間で債務の減額や利息のカット、残債務の分割弁済などに関する合意を取り付けることを目的とした債務整理手続きの一種をいいます。
自己破産や個人再生、特定調停など法律(破産法、民事再生法、特定調停法)でその手順が明確に定められた他の債務整理手続きとは異なり、任意整理の手続きは単に債権者との間で債務の返済方法等を協議するだけの私的な示談交渉の場に過ぎませんから、債権者が合意してくれる範囲で自由な解決を望める点がこの任意整理の特色といえます。
ところで、任意整理の手続きはこのように自由度の高い債務整理手段といえますが、多重債務に悩む人の多くは消費者金融やクレジット会社など比較的貸付利率の高い、いわゆる貸金業者からの借り入れについて返済が滞ってしまうことが多いため、任意整理で処理される債権者も消費者金融やクレジット会社などの貸金業者を対象とするのが一般的な実務の取り扱いになっています。
しかし、多重債務者の中には家賃を滞納している人も比較的多くいますので、中には家賃の滞納分についても任意整理の手続きで滞納分の減額や分割払いの示談交渉をしてもらえないだろうか、と考える人も意外と多くいるのではないかと思われます。
では、家賃の滞納分がある場合には、その滞納家賃の減額や分割払いを目的として、家主との間で任意整理の交渉をすることはできるのでしょうか?
家賃の滞納分を減額交渉すること自体は理論的には可能
結論からいうと、滞納している家賃を弁護士や司法書士に依頼して家主との間で滞納分の減額や分割払いの交渉を行うことは可能です。
なぜなら、前述したように任意整理は法定の手続きではなく、債務者と債権者の間で債務の支払いについて協議する示談交渉の場に過ぎませんから、債権者である家主側が任意整理の交渉に応じるのであれば、それを否定する理由がないからです。
もっとも、滞納家賃は「賃貸借契約」から生じた債務であって、貸金業者などとの間で発生する「金銭消費貸借契約」から生じた債務とはその性質が根本的に異なりますから、滞納家賃について減額交渉を行うことを「任意整理」と呼んで良いのかはわかりません。
弁護士や司法書士によっては「任意整理」ではなく「一般の民事事件」の示談交渉として受任することになるかもしれませんが(※多くの事務所は任意整理の報酬を一般事件より低く設定しているのでケースによっては任意整理よりも弁護士や司法書士に支払う報酬や費用が高くなるかもしれません)、いずれにしても、家主側が交渉のテーブルに就くというのであれば滞納家賃の減額交渉を行うことも可能でしょう。
ただし、任意整理に応じる家主がいるとは思えない
前述したように、滞納家賃の減額交渉を家主との間で行うことは、家主側がその交渉に応じるのであれば可能といえます。
しかし、あくまでも個人的な意見に過ぎませんが、常識的に考えれば家賃の減額交渉に応じる家主はいないのではないかと思います。
なぜなら、家賃を数か月(もしくは数年)滞納しながら弁護士や司法書士に減額交渉を依頼しているということは「私はこれ以上契約通りに家賃を支払うことはできません」ということを宣言していることと同じになりますから、そのように「家賃を契約通り払えない」ということが明らかとなっている店子に対して、それ以上その部屋なり借家なりを貸し続けることは無意味だからです。
仮に、家賃を滞納している店子から弁護士や司法書士を介して滞納分の減額を申し入れられた場合には、家主としてもそれ以上その物件を貸し続けることは拒否するでしょう。
家賃を滞納しながら、その物件には従前どおり住み続け、なおかつ滞納分の減額を求めるというのはあまりにも虫が良すぎるような気がするので、その交渉に無条件に応じる家主はいないのではないでしょうか?
退去すること前提であれば家主側が交渉に応じる可能性もある
もっとも、その物件を退去することを前提として滞納分の減額や分割払いの交渉を打診するのであれば、家主の側でも交渉に応じてくれることはあると思います。
民法や借地借家法など、賃貸契約を規定した法律では、借主の保護が図られているため少々家賃を滞納したぐらいでは家主側から強制的に賃貸契約を解約することは困難な場合も多いのが実情です。
また、仮に賃貸契約を家主の側で強制解約できたとしても、借主がその物件に居座ってしまった場合には強制執行などを裁判所に申し立てて一定の手続きを経なければなりませんから、そのような面倒な手続きを考えると、少々の滞納家賃の減額には応じた方が経済的にメリットがあると家主側が考える可能性もあるでしょう。
ですから、滞納分を減額してくれたらすぐに退去するとか、退去することを前提で交渉を行うのであれば、家主側が滞納家賃の減額や分割払いに応じる可能性はあると思います。
弁護士や司法書士とよく相談して決めるしかない
いずれにしても、滞納家賃がたまっていて支払いが困難な場合には、家主と何らかの話し合いをしなければならないでしょうから、早めに弁護士や司法書士に相談して適切な対処を取ることが必要です。
滞納したままの状態で時間が経過してしまうと、家主の方としても放置しておけなくなり、裁判や強制執行などで強制的に退去させられることもあり、悪くするとホームレスになってしまう可能性もありますので、家賃の滞納が生じた場合には早めに弁護士や司法書士からの助言を受けることが必要といえるでしょう。