闇金に怒鳴らない弁護士・司法書士は頼りにならないのか?

弁護士や司法書士が闇金の処理を依頼された場合、依頼を受けた弁護士や司法書士はヤミ金に直接電話を入れて交渉することになります。

ヤミ金からの借り入れは契約上無効となりますので、交渉とはいっても基本的に「以後の請求や嫌がらせの電話を即時に停止すること」「闇金からの借入契約は法律的に無効で返済する必要性がないこと」「最高裁の判例から借入元金も返済する必要がないこと」「闇金側に支払った利息の全ての返還を求めること」などを通告するだけですが、闇金側がこれに応じない場合には、「闇金が使用する銀行口座の凍結」「闇金が利用する携帯電話の強制解約」「警察への被害届の提出」「警察への捜査の要請」などを材料にして闇金が手を引くよう交渉に入るのが一般的です。

ところで、この弁護士や司法書士がヤミ金に電話する際にどのような口調で話をするかは個々の弁護士や司法書士によって異なりますが、私個人の印象としてほとんどの弁護士や司法書士は一般の消費者金融や銀行などに対するのと同じように、「~です」「~ます」などといった丁寧な口調で闇金と話をしているのではないかと思われます。

しかし、時々テレビなどで放送される「悪徳闇金と戦う弁護士(司法書士)」などといったタイトルの番組を見ていると「弁護士なめんじゃねーぞこの野郎」「てめーふざけんなよ」などと乱暴な言葉で闇金と対峙している弁護士・司法書士が登場することがありますので、闇金から借り入れをしている人の中には、テレビに出てくる弁護士や司法書士と異なり丁寧な口調で闇金と対峙する弁護士や司法書士を見てしまうと「なんだか頼りないなぁ…」と思ってしまうこともあるようです。

では、闇金に対しても乱暴な言葉を使わずに一般の銀行や消費者金融に対するのと同じような丁寧な口調で接する弁護士や司法書士は、本当に頼りないのでしょうか?

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乱暴な言葉で恫喝してビビる闇金はいない

まず断っておかなければなりませんが、そもそもいわゆる「べらんめえ口調」で恫喝したとしてもそれにビビるような闇金はほぼ存在しないということです。

そもそも闇金は犯罪行為であって闇金は裏社会でいわば「ハッタリ」で生きているわけですから、そのような犯罪者集団に対して「てめえ…」「お前…」「ふざけんなよ…」「このやろう…」などと弁護士や司法書士が凄んだところで、ほぼ効果はありません。

たしかに、中には田舎のヤンキー上がりが猿真似で始めた闇金もいるでしょうから、弁護士や司法書士に凄まれて手を引く場合がないこともないでしょうが、そんなのはごく少数にすぎません。

この点、弁護士や司法書士が闇金の被害者を伴って警察の生活安全課に被害届の提出に行くと「先生からも強く言ってもらった方が良いかもしれませんね」などと闇金を恫喝することを勧める刑事がたまにいますが、このような刑事はおそらく自分がヤミ金に恐れられていると勘違いしているのでしょう。

たしかに、警察から闇金に電話を入れてもらうとビビった闇金が手を引くケースもあると思います。

しかし、それは何もその電話を入れた刑事個人を恐れて手を引いたのではなく、その刑事の背後に控えている国家権力を恐れて手を引いたにすぎません。

闇金が一番恐れるのは警察が本腰を入れて捜査を開始し逮捕されることですから、警察を怒らせて本気にさせてしまっては都合が悪いので、刑事からの電話であっさり手を引いているだけなのです。

ですから、刑事から電話が来て闇金が畏怖するのは、その刑事個人ではなくその刑事の背後にある警察組織という国家権力といえるでしょう。

一方、弁護士や司法書士は法律の専門家とはいっても単なる「個人事業主」に過ぎませんから、そのバックには何も権力は存在しません。

確かに、闇金の被害者個人が警察に相談に行くよりも弁護士や司法書士が同席して被害届を提出する方が警察が動く可能性は高くなりますが、通常は闇金の案件をいくら警察署に相談したとしてもよほどのこと(例えば暴行や傷害を受けるとか)がないと警察が本腰を入れて捜査することはありませんから、闇金からしてみれば弁護士や司法書士など何も怖くないわけです。

(※だから巷に多くの闇金業者がのさばっているわけですが…)

このように、弁護士や司法書士といった単なる「個人事業主」と「国家権力」を背後に擁する刑事(警察)とでは、その前提となる影響力が大きく異なっていますから、弁護士や司法書士が乱暴な言葉で凄んだところでその効果はたかが知れているといえるのです。

弁護士や司法書士は闇金と同じレベルに落ちてしまうのを敬遠する

前述したように、単なる個人事業主の弁護士や司法書士がいくら乱暴な言葉で恫喝しても闇金が畏怖する可能性は期待できませんから、闇金に電話する場合であっても多くの弁護士や司法書士は他の銀行や消費者金融に対するのと同じ口調で話をすることになります。

もっとも、弁護士や司法書士が乱暴な言葉を使わないのはそれだけが理由ではありません。

「お前…」とか「てめえ…」などと乱暴な言動を使ってしまうことによって闇金と同じ低レベルの人種に成り下がってしまうことを嫌うのも丁寧な言葉で終始する理由の一つとして存在しています。

弁護士や司法書士は「法律」のプロであって、「法律」は「言葉」で相手を説得するところにその本質があるといえます。

一方、乱暴な言葉で相手を威圧する行為は端的に言って言葉の「暴力」といえますから、弁護士や司法書士が乱暴な言動で闇金と対峙してしまった場合には、その「言葉で説得する」という法律の本質を放棄してしまうことになり、闇金と同程度の低レベルの人種に成り下がってしまうでしょう。

もちろん、弁護士や司法書士も人間ですから、時には感情的になって乱暴な言動をしてしまうこともあるかもしれませんし、なかにはたとえ乱暴な言葉を使っても法律家の本質を放棄するものではないと考える弁護士や司法書士もいるでしょうから、弁護士や司法書士が乱暴な言葉を使うことを一概に否定することはできません。

しかし、言葉で相手を説得するという法律の本質を尊重する弁護士や司法書士が一定数いるのは事実であって、そのような弁護士や司法書士にしてみればたとえ相手が犯罪行為を伴う闇金であろうと「暴力」にあたるような暴言は控えるのは当然です。

ですから、暴力的な言動を取るかとらないかはあくまでもその弁護士や司法書士の思想によるものであって、弁護士や司法書士の能力とはまったく関係がないといえます。

テレビで怒鳴っているのは単なる演出にすぎない

テレビなどで放送される「悪徳闇金と戦う弁護士(司法書士)」などといったタイトルの番組に出てくる弁護士や司法書士の中には、闇金に電話をする際に闇金顔負けのドスの利いた声で怒鳴り散らす方もまれにいらっしゃいますが、これは多分に演出も含まれているということを理解しておいた方が良いです。

番組の制作側としては、「闇金に丁寧な言葉で対応する弁護士(司法書士)」よりも「闇金に対して大声で恫喝する弁護士(司法書士)」の方を使いたがります。

なぜなら、見ている視聴者としても「怖い闇金に対しても怒鳴り散らす弁護士(司法書士)」の方が「悪い闇金を退治する正義の味方」に見えて気持ちが良いですし、「闇金(悪)VS弁護士・司法書士(正義)」の対決構造が画面上明確になって視聴率が稼げるからです。

また、テレビに出演する弁護士や司法書士としても、闇金に丁寧に接するより乱暴な言葉で怒鳴り散らす方が「テレビ映え」して事務所の宣伝にもなると考えるはずですから、テレビに出るような弁護士や司法書士は画面上わざと大きな声で恫喝する面があるのではないかと思われます。

弁護士に依頼すれば闇金も簡単に解決すると思い込んでいる君へ」のページでも書いていますが、現実には闇金は弁護士や司法書士が介入しても簡単には手を引かない場合は多いですからテレビに出演する弁護士や司法書士が交渉する際にも、闇金が交渉に応じない場合も多くあると思います。

しかし、そのように闇金が弁護士や司法書士のいうことを聞かない場合であっても、弁護士や司法書士が大声で怒鳴り散らしている映像が映し出されれば「なんとなく解決している」ように見える反面、これが丁寧な言葉遣いをする弁護士や司法書士だと、「あんな丁寧に話すから闇金がつけあがるんだ」と視聴者も思ってしまうでしょう。

ですから、テレビに出演する弁護士や司法書士は、交渉に応じない闇金に対しても「なんとなく解決できている」ような雰囲気を出すためにあえて乱暴な言葉で怒鳴り散らす演出をしている面はあると思います。

闇金に怒鳴り散らすかどうかは個々の弁護士や司法書士の能力と関係ない

以上で説明したように、闇金に対して乱暴な言動で対峙するかしないかは個々の弁護士や司法書士の思想(法律家という仕事に対する考え方)の問題ですし、「VS闇金」などというテレビに出演するような弁護士や司法書士のイメージは多分に演出が含まれるものに過ぎませんから、闇金に怒鳴り散らすかどうかは弁護士や司法書士の個々の能力とは全く関係がないことになります。

闇金からお金を借りてはいけない本当の理由」や「弁護士に依頼すれば闇金も簡単に解決すると思い込んでいる君へ」のページでも詳しく解説していますが、弁護士や司法書士が介入したとしても本人に対する請求や嫌がらせを止めない闇金は少なからず存在していますから、そのような闇金は弁護士や司法書士から怒鳴り散らされたとしても請求や嫌がらせを止めることはありません。

ですから、闇金に怒鳴り散らすかどうかは闇金の解決には全く影響しないのです。

弁護士に依頼すれば闇金も簡単に解決すると思い込んでいる君へ」の最後にも記述しているとおり、闇金の処理は最終的には闇金から借り入れをした「本人」と、請求や嫌がらせを止めない「闇金」との根競べになります。

そのため、闇金を解決できる弁護士や司法書士の能力は、最後まで依頼人に寄り添って闇金と対峙することができるかという点に尽きることになります。

確かに闇金に対して大声で恫喝する弁護士や司法書士はカッコよく、頼りがいがある様に見えますが、乱暴な言葉で怒鳴り散らす電話を一本入れただけで闇金の処理を終了してしまったのでは何の解決にもならないでしょう。

それよりも、言葉遣いは丁寧であっても依頼者に最後まで寄り添ってくれる弁護士や司法書士の方がはるかに能力は高いといえるのではないでしょうか。

このように、闇金に対して乱暴な言葉で怒鳴り散らすか、丁寧な言葉で応対するかは、その弁護士や司法書士の能力とは全く関係がありませんので、丁寧な言葉で闇金と応対する弁護士や司法書士を見て安易に「頼りない」などと判断を下さないようにしてもらいたいと思います。