自己破産できる平均負債額はいったいいくらなのか?

借金の返済が事実上困難になった場合には、最終的には裁判所に自己破産の手続きを申し立て、裁判所から免責の許可を受けることで借金の返済義務を法的に免除してもらうしか方法はありません。

しかし、ここで問題となるのが「いったいいくらの借金があれば自己破産の免責が認めてもらえるのか」という点です。

借金の総額が1000万円程度あるのであれば、常識的に考えて裁判所から免責を受けられるだろうという想像は立ちますが、たとえば借金の総額が50万円程度しかないような場合でも免責が受けられるのかと考えると判断がつかない人もいるのが現実でしょう。

では、実際の自己破産の現場では、平均的にいくらぐらいの借金があれば自己破産の免責が認められるといえるのでしょうか?

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自己破産で免責を受けられる基準に平均負債額などは存在しない

結論からいうと、自己破産の免責を受けるために「これ以上負債がないと免責は受けられない」といったような平均負債額のようなものは存在していません。

簡単にいえば、負債の金額がいくらであっても自己破産の免責は認められるのが実際の取り扱いです。

なぜそうなるかというと、自己破産の手続きを規定した破産法はそもそも「支払不能」または「債務超過」に陥っている債務者の資産と負債を清算する手続きとして定められていますし(破産法1条)、破産手続きを申し立てる場合の要件も「支払不能にあるとき」か、もしくは支払不能との推定が働く「支払いを停止したとき」のどちらかであれば足りるとされていて(破産法15条)、負債金額の多寡は申立の要件とされていないからです。

【破産法1条】

この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

【破産法15条】

1項 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2項 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。

このように、法律上は負債の金額がいくらあるかといったことは全く関係ありませんから、「平均的にいくらぐらいの借金があれば自己破産できるか」といった質問の答え自体が存在しないのです。

借金が数万円、数十万円程度でも自己破産が認められることはある

前述したように、自己破産の申し立てをして「免責(借金の返済義務が免除されること)」を得るためには「支払不能」に陥っているか「支払いを停止」しなければならないほど返済に行き詰っていれば足りるので、極端にいえば「数万円」や「数十万円」しか借金がない人であっても自己破産の認められることになります。

たとえば、手取り金額が12万円程度の一人暮らしのパート労働者が、どれだけ生活費を切り詰めたとしても毎月の生活費として最低でも「家賃4万円」「国民年金15,000円」「健康保険2,000円」「光熱費10,000円」「通信費3,000円」「食費30,000円」の金額が必要であったとすると、毎月の余剰金は「20,000円」程度にしかなりませんから、そこから毎月返済に充てられる金額は、せいぜいその半分の「10,000円」程度にしかならないでしょう。

そうすると、このようなパート労働者が借金を任意整理や特定調停で処理しようとすれば、任意整理や特定調停が債務の残高を3年(36回)の分割で返済することを考えれば、36万円を超える借金を抱えている場合はその時点ですでに任意整理も特定調停もできない「返済不能」に陥っていることになりますので、このような家計状況の債務者は37万円程度の借金であっても「支払不能」という破産手続きの要件を満たすことになり、自己破産の手続きを申し立てて免責をうけることになんら支障はないことになるのです。

もちろん、37万円程度の借金であれば、健康で働くことに支障がない限り返済できないことはないでしょうから、現実的に考えて37万円程度の借金で自己破産してしまう人はいないのが現実でしょう。

(※このケースでも、パートを増やすとか、食費をもう少し抑えるとか、年金の納付の免除の手続きを取るなどして余剰金を増やすとかすればもう少し返済額は増える可能性があるので37万円程度の負債額で自己破産に至るケースは現実的には考えられないかもしれません)

しかし、先ほども述べたように、法律上は「返済不能」か「支払い停止」に陥っていれば借金の金額にかかわらず免責は認められますので、たとえ数万円、数十万円程度しか負債額がない場合であっても、自己破産で免責を受けること自体何ら差し支えないことがわかります。

最後に

以上で説明したように、法律上は債務の総額は自己破産の免責の許可と一切関係ないので、「自己破産の免責を受けるための平均負債額はいくらか」といった質問には正確に答えられる回答は存在しないことになります。

もっとも、先ほども述べたように現実的には数十万円で自己破産する人はいませんから、一般的には100万円前後の借金があればその収入の金額によっては自己破産の申し立てを考えなければならないケースはあるものと考えられます。

実際、私が過去に処理した案件でも100万円を少し超えるぐらいから200~300万円程度で自己破産する人がほとんどでしたので、その程度の借金であっても収入や生活費の支出額によっては自己破産を検討しなければならないケースはあると考えておいた方がよさそうです。

ただ、繰り返しになりますが、法律上はたとえ数万円でも数十万円でも、毎月の収入と生活費を計算して「支払不能」や「支払い停止」の状況に陥っているのであれば自己破産の免責は十分に認められますし、むしろ自己破産で処理することも積極的に考えなければならない状況にあるということができますので、早めに弁護士や司法書士に相談し、適切な対処をしてもらうことを考える必要があるといえます。