自己破産するなら結婚前?それとも結婚後?

結婚を予定している人が借金の返済に追い込まれている場合、結婚する「前」に自己破産するか、結婚した「後」に自己破産するかで迷ってしまうことがあるようです。

ほとんどの人は結婚「前」に自己破産を行い、借金を処理した状態で結婚後の新生活を始めたいと思うようですが、結婚「前」に自己破産することでそのことが婚約者にバレてしまい婚約が破談になってしまうことが気になるようです。

では、実際問題として、借金の返済が滞り自己破産が避けられない場合には、結婚する「前」に自己破産するのが良いのでしょうか?

それとも、結婚した「後」に自己破産する方が良いのでしょうか?

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結婚する「前」に自己破産するべき

結論からいうと、自己破産をしなければならない状態にあるのであれば、すぐに自己破産すべきですから、結婚する「前」に自己破産する方が良いと考えられます。

理由は色々ありますが、あえて挙げるなら次の3つが代表的な理由といえます。

(1)結婚した「後」に破産すると結婚相手の書類も必要となる

自己破産の申し立てをする場合には、同居する親族に関する住民票や無資産証明書、給与明細書といった書類や、その同居する親族の口座から家賃や光熱費を支払っている場合にはその同居の親族の預金通帳のコピーなどの提出が必要になります。

したがって、結婚する「前」に自己破産した場合には、自分自身に関係する書類だけを裁判所に提出すれば済みますが(※ただし親と同居している場合には親の書類も必要になります)、結婚した「後」に自己破産する場合には、その結婚相手の給与明細や無資産証明書、場合によってはその結婚相手の通帳のコピーも裁判所に提出しなければならなくなってしまいます。

このように、結婚した「後」に自己破産する場合には、結婚相手の書類を裁判所に提出することを求められることから、結婚相手に負担をかけてしまいますし、結婚相手に借金の存在を隠していた場合には借金がバレてしまう可能性も否定できないでしょう。

ですから、このような点を考えれば、結婚する「前」に自己破産をするべきということができます。

(2)結婚相手にバレる確率は結婚「後」に自己破産する場合の方が高くなる

結婚する「前」に自己破産すると自己破産したことが相手にバレて結婚できなくなると不安になる人も多いようですが、(1)で説明したように結婚した「後」に自己破産する場合には結婚相手に関する書類も収集する必要があることから、結婚した「後」に自己破産する方が結婚相手に借金の存在がバレる可能性は高まります。

しかも、仮に結婚した「後」に自己破産をして結婚相手にバレてしまった場合には「なぜそんな重要なことを内緒にしていたんだ?」と逆に相手に不信感を抱かせてしまい夫婦仲が悪くなる可能性すらあるでしょう。

結婚した「後」に自己破産する方が相手にバレるリスクは格段に高くなりますし、仮にバレてしまうとしても結婚した「後」にバレる方が結婚相手から失う信用は大きくなるわけですから、結婚した「後」に自己破産する利点はないといえます。

ちなみに、結婚する「前」に自己破産すると結婚相手にバレて結婚できなくなってしまうと心配する人が多くいるようですが、結婚する「前」に自己破産したからと言ってそのことが婚約者に知られてしまう可能性はほとんどないのが実情です。

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(3)結婚した「後」に自己破産すると免責不許可事由の問題が生じる場合がある

結婚する「前」に自己破産をする必要があるにもかかわらず、あえて結婚した「後」に自己破産の申立を行ってしまうと、その理由がどのようなものであったとしても「故意に自己破産の手続きを遅らせた」ということになってしまいます。

この点、「債務の返済不能」な状態にあって自己破産が避けられないにもかかわらず、自己破産の申立を遅らせるために借金を繰り返してしまう行為は、貸付金の返済が受けられない債権者の損失を無駄に増大させる行為として免責不許可事由に該当してしまう可能性がありますので、自己破産による免責(※借金の返済が免除されること)が受けられなくなってしまう危険性が生じます(破産法第252条1項2号および5号)。

【破産法第252条】

裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 (省略)
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三~四(省略)
五 破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六(以下省略)

ですから、結婚する「前」に自己破産するかしないか迷っている状況にある時点で、法律的にはすぐに自己破産しなければならないといえるのですから、どのような理由を考えても法律的に考えて結婚した「後」に自己破産することは認められないといえます。

そもそも、結婚する「前」に自己破産することを考えているのであれば、その後に借り入れを増やす行為は「返せるあてがないけど自分の利益のためなら債権者からお金を騙し取っても良い」と考えていることに他なりませんから、結婚する「前」に自己破産が必要であるにもかかわらず、結婚した「後」に遅らせること自体が倫理的に間違っているともいえるでしょう。

最後に

以上のように、結婚する「前」に自己破産するか結婚した「後」に自己破産するかで迷うことにそもそものメリットはなく、そのように迷うこと自体で債権者の損失は増大してしまうのですから、そのように迷うこと自体がおかしいのであって、結婚する「前」に自己破産するしか選択の余地はないといえます。

ですから、自己破産が避けられないほど債務が増大しているのであれば、このような無駄な事で迷う前に、早めに弁護士や司法書士に相談し適切な対処をすることが求められると思います。