任意整理の依頼を弁護士や司法書士から断られるケースとは?

任意整理とは、債権者との間で借金の減額や利息のカット、原則3年以内の分割払いの協議を行う債務整理手続きの一種です。

任意整理の手続きは、借金の返済に関する単なる示談交渉に過ぎませんので債務者本人で行うことも可能ですが、法律的な専門的な知識がないと債権者側に都合の良いように交渉を進められてしまう危険性がありますので、弁護士や司法書士に依頼して代理人となって交渉してもらうのが一般的です。

もっとも、弁護士や司法書士に任意整理を依頼する場合であっても、全ての弁護士や司法書士がその任意整理の相談を受け付けてくれるわけではありませんし、仮に相談には応じてくれたとしても、ケースによっては弁護士や司法書士から受任を断られる事例も存在します。

では、具体的にどのようなケースでは弁護士や司法書士から任意整理に関する相談や依頼を断られることがあるのでしょうか?

広告

弁護士や司法書士から任意整理の「相談」を断られる場合

(1)企業法務専門の事務所だった場合

弁護士や司法書士の事務所といっても、事務所によってその専門分野は数多く分かれており、弁護士では一般企業の合併や買収、破綻した企業の再生など企業法務を、司法書士では企業の役員や組織変更などの商業登記業務を専門に扱っている事務所も比較的多く存在します。

これら企業法務や商業登記業務を専門に扱っている弁護士や司法書士事務所では、業務の専門性と効率化から、一般民事事件を受任していない事務所も少なくありません。

この点、任意整理や自己破産などの債務整理の相談は「一般民事」の事件として扱われることになりますから、このように企業法務を専門に扱っている弁護士事務所や商業登記を専門に扱っている司法書士事務所では、任意整理など債務整理の相談が来たとしても相談自体を受け付けない取り扱いをしているケースも稀に見られます。

そのため、このように企業法務や商業登記業務など、一般企業からの依頼を中心に受けているいわゆる「企業法務」専門の弁護士や司法書士事務所に任意整理の相談をした場合には、その相談自体が断られてしまうケースもあります。

(2)受任案件が既にその事務所のキャパを越えている場合

任意整理の相談をしようとした弁護士や司法書士事務所が、その事務所の受任可能なキャパシティーを越えているような場合にも、相談自体を断られる場合があります。

債務整理を扱っている事務所ではたいていの場合、新規の任意整理の相談を断られることはありませんが、その事務所の事務処理能力を超えた仕事量をすでに受任してしまっている場合には、それ以上の相談を受けても実際に受任することができませんから、相談自体を断られるケースがあります。

比較的大手の事務所(〇〇弁護士法人や〇〇司法書士法人など法人形態になっている事務所が多い)や、インターネットで広告を出稿している事務所ではあらかじめ多量の債務整理案件を処理できる体制を整えているため任意整理の相談自体を断られるケースはほぼありませんが、そうではない個人開業の弁護士・司法書士事務所では、担当できる弁護士や司法書士も1人~2人程度しか在籍していないケースも多く、事務職員などスタッフの人員にも限りがあるため受任件数が既に限界を超えている場合には、相談自体を断られてしまう場合も有るでしょう。

弁護士や司法書士から任意整理の「依頼」を断られる場合

(1)貸金業者やクレジット会社からの借り入れではない場合

任意整理は債権者が協議に応じればその種類に関係なく交渉が可能な手続きですので、消費者金融などの貸金業者やクレジット会社などからの借り入れでないような一般の負債であっても任意整理で処理することは原則として可能です。

しかし、それはあくまでも理論的には可能というだけの話に過ぎず、現実的に考えると消費者金融などの貸金業者やクレジット会社から借りたお金でないような借金については、任意整理で処理することは困難な場合も多くあります。

たとえば、自営業者が取引先に負担している買掛金であったり、友人や親類など個人からの借金であったりする場合には、ケースによっては相手方が任意整理の交渉に応じないことが明らかな場合も想定できますので、そのような場合には弁護士や司法書士としても任意整理としての依頼を断るケースもあるかもしれません。

また、年金や健康保険、税金などの滞納分を任意整理で処理してもらいたいというような依頼があった場合には、弁護士や司法書士が依頼を受けて役所などと交渉することも不可能ではありませんが、そのメリットがあまりないので受任を拒否されることもあり得るでしょう。

▶ 年金や国民保険、税金の滞納分も任意整理することができるか?

(2)「自己破産だけは絶対にしたくない」という場合

「絶対に自己破産だけはしたくない」と決意しているような依頼人の場合も、弁護士や司法書士から任意整理の依頼を拒否されるケースがあります。

借金の整理に関する債務整理は、全てのケースで任意整理で処理できるわけではなく、借金の総額やその依頼人の収入、毎月の家計支出などの状況によっては、債権者との分割払いの協議を行うことができないため最終的に自己破産で解決を図るしかないケースも存在しています。

そのため、任意整理の依頼を受けた場合であっても、債務の調査や債権者との交渉、依頼人の毎月の家計状況等の事情によっては、手続きの途中で任意整理から自己破産に手続きを移行させる必要があるケースも多くあるのが実情です。

それなのに、依頼人本人が「絶対に自己破産は嫌だ」と頑なに自己破産を拒否するような場合には、事件を受任した弁護士や司法書士としても解決したくても処理することができずにズルズルと案件を保留状態にせざるを得なくなり、悪くすると「案件を放置した」ということで懲戒請求を食らってしまう危険性も生じてしまいます。

ですから、弁護士や司法書士が任意整理を受任する場合には、あらかじめ「場合によっては自己破産で処理せざるを得ない場合も有りますがそれでもかまいませんか」と本人に尋ねるのが一般的で、それを拒否するような依頼人は最初から任意整理の依頼自体を受けない方針にしている事務所もあります。

(3)十分な収入がない場合

依頼人に収入が全くないか、収入があっても債務を3年以内で完済できるほどの家計余剰金が捻出できないような場合には、弁護士や司法書士から任意整理の依頼を断られる場合があります。

任意整理は、利息の再計算をした後に残る債務については原則3年以内で分割弁済することになるのが通常ですから、全く収入がないような人はそもそも任意整理で借金を処理することができません。返済原資となる収入がないからです。

▶ 任意整理後の月々の返済額はどのように決められるのか?

また、仮に収入があったとしても、毎月の収入から毎月の生活費を差し引いた毎月の余剰金が十分でない場合には、その毎月の余剰金で余裕をもって残りの債務を返済していくことができませんから、そのような場合にも任意整理は不可能といえます。

このように任意整理の分割弁済に関する返済原資(毎月の余剰金)が十分に確保できないような人はそもそも任意整理の手続き自体が無理なのであり、自己破産で処理するべき案件といえますから、そのような人から任意整理の依頼があったとしても、弁護士や司法書士としては任意整理として受任することはできないでしょう。

(4)家族に内緒にしたい場合

任意整理を弁護士や司法書士に依頼する人の中には、家族に内緒で処理をしてほしいと希望するケースも多くあります。

この点、同居する夫や妻、親などに内緒で任意整理の手続きを進めることも不可能ではありませんから、弁護士や司法書士によっては受任する事務所も決して少なくはありません。

▶ 妻や夫に内緒で任意整理できるか?

しかし、家族に内緒で処理したいという希望があったとしても、その内緒にしたい家族の誰かが任意整理の対象とする借金の保証人になっていた場合には、その家族に内緒で任意整理することは不可能です。

また、任意整理の手続きには3カ月から半年程度の期間がどうしても必要となり、その期間には依頼人本人に電話をしたり書類のやり取りのため書類を郵送することも必要になりますが、仮に弁護士や司法書士事務所であることを伏せて封書で送付したとしても同居の家族に開封されてしまえばすぐにばれてしまうわけですから、絶対に家族に内緒にできる保証はありません。

加えて、そもそも多重債務に陥ってしまう原因のほとんどは毎月の家計に無駄があったり収入以上の生活レベルで生活してしまっていることにあるのが通常ですから、家族に内緒で処理しても根本的な解決にはならない場合も多くあります。

このような理由から、弁護士や司法書士事務所の方針によっては家族に内緒にすることを希望する任意整理の依頼をあまり積極的に受任しなかったり、家族に話をすること前提でしか任意整理を受任しない事務所も少なからずあるのが実情です。

ですから、そのように家族に内緒で処理することを消極的に扱っている事務所では、家族に内緒で処理することを希望する任意整理の依頼は拒否される場合があります。

(5)嘘ばかり申告する場合

任意整理を依頼した依頼人が嘘ばかりついているケースでも弁護士や司法書士から依頼を断られる場合があります。

任意整理を弁護士や司法書士に依頼する場合には、まず最初にその弁護士や司法書士の事務所で債務整理の相談をしてもらうのが一般的ですが、その際に質問される事項に対して嘘ばかり話してしまうと、弁護士や司法書士から相談者(依頼人)と信頼関係を築くことができないと判断されて拒否される場合があるのです。

嘘の内容は様々ですが、他に隠している借金があったり、電話で来所の予約を取る際にこれ以上借入するなと言われていたのに相談する直前に借り入れをしていたりするケースが多くみられます。

このような虚偽の申告や嘘は、弁護士や司法書士にはすぐにばれてしまいますから、信頼関係が築けないとして依頼を断られる場合も稀にあります。

(6)闇金からの借り入れがある場合

闇金からの借り入れについては弁護士や司法書士の事務所によっては受け付けていないところもありますので(闇金の依頼を拒否することが適切なのかは知りませんが…)、消費者金融などからの借金の他に闇金からの借り入れがある人が任意整理をした場合には、任意整理の依頼自体を断れられることもあります。

この場合、闇金以外の債務についてだけ依頼を受けてくれてもよさそうですが、一般の金融機関の任意整理だけを処理して闇金だけを処理しないと、「簡単な債権者の任意整理だけ処理して闇金案件を放置した」と受け取られかねません、

そのため、弁護士や司法書士によっては後々問題にされて懲戒請求などをされることを懸念して、闇金からの借り入れがある人の依頼は最初から受け付けない方針にしている事務所も少なからず存在します。

(7)利益相反する場合

弁護士や司法書士は、依頼人の紛争の相手方と以前から利益を受けている関係にある場合には、その依頼人からの依頼を受任することができません。

一般に「利益相反」と言いますが、依頼人から特定の依頼を引き受けた場合に、その依頼の元になっている紛争の相手方から利益を受けている場合には、その依頼人に不利益な交渉をしてしまう可能性があることから、そのような「利益が相反する依頼」を受けることが禁止されているのです。

たとえば、弁護士や司法書士がAという貸金業者の依頼を受けて債権回収や登記業務を行っている場合を考えると、その弁護士や司法書士は仮に相談者から任意整理(債務整理)の依頼を受けた場合であっても、その相談者がAという貸金業者から借り入れを行っている場合には、その相談者からの依頼を受けることができなくなります。

なぜなら、このような場合、その弁護士や司法書士はAという貸金業者から債権回収や登記業務の報酬を受け取っている以上、Aという貸金業者は大切な依頼人(顧客)にあたりますから、相談者の代わりにAという貸金業者と任意整理の交渉をしても、Aという貸金業者に不利な結果となるような交渉をすることが難しくなるからです。

このように、依頼人双方が対立関係(利害関係)に立つような依頼は利益相反として受任が禁じられていますので、仮に任意整理の相談を行った弁護士や司法書士が任意整理の対象となる債権者と何らかの取り引きがあるような場合には、任意整理の依頼を断られてしまうこともあるでしょう。

※もっとも、弁護士や司法書士が貸金業者やクレジット会社と何らかの利益関係があるのは、その業者の顧問弁護士や顧問司法書士に限られるのが通常ですので、利益相反が問題になるケースはそれほど多くありません。

ただし、司法書士の場合には銀行から依頼を受けて、抵当権の設定や抵当権登記の抹消手続きを行っていることが多いため、銀行のカードローンについて債務整理を行う場合には、事務所によっては依頼を断られるケースはあるかもしれません。

最後に

以上のように、弁護士や司法書士の事務所によっては、そもそも任意整理の相談自体に応じなかったり、相談には応じても個別の任意整理の依頼は受任しない場合も有りますので注意が必要です。

なお、弁護士や司法書士が任意整理を依頼するかしないかはその弁護士や司法書士の判断にゆだねられるのが原則ですので、特段の事情がない限り依頼を拒否されたからと言ってその弁護士や司法書士に対して懲戒請求することはできないとものと思われます。

仮に弁護士や司法書士から任意整理の依頼を断られた場合には、ネットなどで他の事務所を探して相談し直すしかないでしょう。