個人事業主の任意整理では買掛金も処理できる?

任意整理は、弁護士や司法書士に依頼することにより、債権者との間で利息のカットや債務額の減額、分割和解の締結などの協議を行う債務整理手続きの一種です。

自己破産や個人再生など裁判所に申し立てが必要となる手続きと異なり法律で定められた法定の手続きではありませんから、特定の債権者だけを手続きの対象として、または特定の債権者を手続きから除外して交渉することができるのが任意整理手続きの大きな特徴といえます。

ところで、個人事業主の方が多重債務に陥っている場合には、貸金業者やクレジット会社からの借り入れだけでなく、取引先からの買掛金の支払いに窮しているケースも少なからずあるのではないかと思われます。

このように買掛金の支払が困難になった場合には、貸金業者やクレジット会社から借金だけでなく、買掛金の請求についても任意整理で処理してもらいたいと考えている人もいるのが実情でしょう。

では、任意整理の手続きでは、取引先などからの買掛金についても債務額の減額や分割弁済の交渉を行うことは可能なのでしょうか?

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買掛金について任意整理することも不可能ではない

結論からいうと、買掛金を任意整理することも不可能ではありません。

前述したように、任意整理の手続きは、自己破産や個人再生手続きとは異なり法律で法定された手続きではなく、債権者との間で返済額や返済回数などの示談交渉を行う私的な話し合いに過ぎませんから、例えその債務の対象が買掛金などであったとしても、相手方の債権者が任意整理に応じるのであればこれを否定する理由はないからです。

ですから、仮に個人事業主の人が買掛金の支払いが困難な状況に陥っている場合には、弁護士や司法書士に任意整理の手続きとして依頼し、債務額のカットや分割弁済の協議をしてもらうというのも解決方法の一つとして有効な場合も有るということが言えます。

債務の減額や長期の分割に応じてくれるかは取引先次第

前述したように、取引先からの買掛金についても任意整理の対象として債務額の減額や分割弁済の協議を弁護士や司法書士に依頼すること自体は可能です。

しかし、任意整理はあくまでも私的な示談交渉に過ぎませんので、相手方の取引先が任意整理に応じるか応じないかは相手先の取引先の判断に委ねられることになります。

したがって、仮に相手方の取引先が任意整理の交渉自体に応じない場合には弁護士や司法書士に任意整理を依頼したとしても交渉自体が成り立ちませんし、相手方の取引先が交渉に応じたとしても債務の減額や長期の分割払いに応じるかはまた別の問題になります。

貸金業者やクレジット会社が相手ならほとんどの場合、任意整理の交渉に応じて3年以内の分割払いに応じてくれるのが通常ですが、取引先などの一般企業では、そのような交渉に応じることはそれほど期待できないかもしれません。

ですから、取引先からの買掛金を任意整理する場合には、貸金業者やクレジット会社からの借り入れのようにうまく交渉が進まないこともあらかじめ念頭に置いておいた方が良いのではないかと思います。

※弁護士や司法書士の事務所によっては貸金業者やクレジット会社以外の任意整理は不成立になる可能性が高いとして買掛金等の任意整理自体を受け付けていないところもあるので注意してください。

あらかじめ取引先には連絡を入れておくこと

なお、仮に取引先の買掛金について任意整理の手続きで債務の減額や分割弁済の協議を行おうとする場合には、必ず前もってその取引先に一言連絡を入れておいた方が良いと思います。

何も連絡せずに、いきなり弁護士や司法書士から「〇〇さんから依頼を受けたので債務の減額と分割払いの協議をお願いしたのですが…」などと連絡が来たとすると、取引先としても驚くでしょうし、長年取引した相手が弁護士や司法書士を雇って交渉してきたと知れば気分を害してしまう可能性もあります。

そうなってしまうと、まとまる話もまとまらなくなって不都合ですから、弁護士や司法書士に取引先の買掛金の任意整理を依頼する場合には、その弁護士や司法書士の了解を得たうえで、事前に取引先に一本連絡を入れておく方が良いかもしれません。

取引先との関係はそれで終了することを覚悟するしかない

なお、取引先からの借入金を任意整理の対象として処理する場合には、その取引先との関係はそれで終わってしまうことは覚悟しておくべきでしょう。

買掛金を任意整理で処理するということは、相手方となる取引先からすれば「契約上払わなければならない売掛金を踏み倒すような信用のできない事業主」ということになりますので、よほど人情的な業者でもない限り、その後の取引は拒否されてしまうはずです。

ですから、取引先からの買掛金を任意整理する場合には、その取引先を失っても事業を継続することができるのか、また他の代替が利く取引先とすぐに取引はできるのかなどの点を熟慮し、依頼する弁護士や司法書士とも十分協議してから手続きに入ることが必要でしょう。