公務員が自己破産すると勤務先にバレる?~共済組合の問題点~

借金の返済が困難になった場合には、最終的に自己破産の手続きを裁判所に申し立てることも考えなければなりません。

自己破産は裁判所に申立を行うことで借金全額の返済を免除してもらう手続きですから、分割返済で払いきれないほど借金が膨れ上がってしまった場合であっても、裁判所から自己破産が認められれば、その全ての借金の返済が免除され、生活の再建が望めるからです。

ただし、自己破産の手続きを申立てる場合には、特に注意すべき点があります。

それは、自己破産を裁判所に申し立てる場合には、全ての債権者に対する債務を裁判所に届け出なければならないという点です。

この点、債務整理の中でも最も多く利用されている任意整理の手続きの場合には、特定の債権者だけを任意整理の対象として、または特定の債権者を任意整理の対象から除外して手続きを進めることも可能です。

▶ 任意整理で一部の債権者だけを処理することはできる?

しかし、自己破産の手続きではすべての債権者を手続きに含めて申立てることが法律で義務付けられていますので、任意整理のように特定の債権者だけを対象としてまたは特定の債権者だけを除外して手続きを進めることはできないのです。

この自己破産の手続きにおいて全ての債権者を手続きに含めなければならないという点が最も影響があるのが、申立人が公務員の場合です。

なぜなら、公務員の人が多重債務に陥っている場合、そのほとんどの人が共済組合から借り入れをしてしまっているからです。

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共済組合から借り入れがある場合には勤務先に知られてしまう可能性がある

なぜ共済組合から借り入れをしている人が自己破産を申し立てると都合が悪いかというと、共済組合からの借り入れについては、その返済方法が毎月の給料からの天引き(控除)とされているからです。

自己破産の手続きを裁判所に申し立てると裁判所から各債権者に対して「おたくがお金を貸している人が自己破産をしましたので債権を裁判所に届けてくださいね」という通知が発送されることになりますが、共済組合から借り入れのある公務員が自己破産を申し立てた場合には、当然その共済組合に対して裁判所からこの通知がなされることになります。

その場合、共済組合は給料からの天引はできなくなりますから、勤務先の職場で給料を計算している経理部に連絡を取り、月々の給料からの天引(控除)を中止しなければなりません。

この連絡がどのように行くのかは各共済組合やその公務員の職場によって異なるでしょうから確実なことはいえませんが、連絡の仕方によっては自己破産中であることが伝わってしまう可能性も否定できないでしょう。

ですから、公務員の人が自己破産する場合において共済組合からの借り入れがある場合には、裁判所から共済組合に、共済組合から勤務先の職場の経理部に、と自己破産をしたことに伴う何らかの連絡がなされることが予想されるため、勤務先の職場に自己破産をしていることが知られてしまうリスクが高いといえます。

共済組合だけを自己破産の手続きから除外することはできない

このように、共済組合から借り入れをしている公務員の人が自己破産をする場合には、勤務先の職場に自己破産をしていることが知られてしまう可能性があるわけですが、だからと言って共済組合だけを自己破産の債権者から除外することはできません。

冒頭で説明したとおり、自己破産の手続きでは借り入れのあるすべての債権者を自己破産の手続きにおいて裁判所に申告しなければなりませんから、共済組合の債務を自己破産に含めることで勤務先の職場に自己破産中であることが知られる可能性があったとしても、共済組合だけを特別扱いして自己破産の手続きから除外することはできないのです。

自己破産の申立直前に共済組合からの借金だけを完済させてしまうのはOKか?

では、自己破産の申立直前に、共済組合からの借入金だけを完済してしまい、共済組合からの借金を消滅させたうえで他の債権者の債務だけを自己破産の手続きで処理してしまうことは可能でしょうか?

自己破産の申立前に共済組合からの借入金を全て弁済してしまえば、自己破産の手続きに共済組合を含める必要もなくなり、その結果共済組合から勤務先の職場に連絡されて自己破産していることが知られてしまうリスクをなくすことができるため問題となります。

しかし、これは原則的にすべきではありません。

なぜなら、自己破産の申立前に特定の債権者だけに弁済してしまうことは、「偏波弁済(※特定の債権者に対する債務だけを弁済すること)」として自己破産手続の「免責不許可事由」に該当し、裁判所から免責不許可の決定(※借金の返済免除が受けられないこと)が出されてしまう可能性があるからです。

勤務先の職場にバレてしまうのを防ぐために共済組合からの借金だけ返済してしまいたくなる気持ちはわかりますが、偏波弁済として免責不許可になるリスクを考えれば、自己破産の申立直前に弁済してしまうのは辞めた方が良いと思います。

ただし、例外的に偏波弁済を覚悟の上で共済組合からの借り入れだけ弁済してしまうこともある

前述したように、仮に勤務先に自己破産をしていることが知られるのを逃れるためであったとしても、共済組合の債務だけを事前に弁済し完済してしまうのは偏波弁済として免責不許可自由に当たるため、すべきではありません。

もっとも、共済組合からの借入額が他の債務に比べて極めて少額しかないような場合には、偏波弁済にあたることを承知の上であらかじめ弁済し、共済組合からの借金を消滅させたうえで自己破産の申し立てをするケースもあります。

たとえば、貸金業者A社、B社、C社に対してそれぞれ100万円ずつの借金があり、それとは別に共済組合のDから1万円の借金がある場合に自己破産する場合を考えると、原則的に考えればA・B・C・Dの全てを自己破産の債権者として申立しなければなりませんが、そうしてしまうと共済組合のDからの借金はわずか1万円でAやBやCからの借金の100分の1しかないにもかかわらず、勤務先の職場に自己破産の事実が知られてしまってはあまりにも不都合です。

そのため、このような場合には、あらかじめ共済組合Dからの借金1万円を返済したうえで、A・B・Cに対する債務だけを自己破産で処理するという方法をとることもあるのです。

もちろん、これは前述した「偏波弁済」に該当し「免責不許可事由」として自己破産の手続きで禁じられている行為ですから、このような偏波弁済を選択せざるを得なかった理由を上申書に記載して裁判所に提出し、裁判官や破産管財人の理解を求めなければなりません。

しかし、わずかな借金のために勤務先に知られてしまうことを考えれば、このように偏波弁済してしまうこともやむを得ない理由として認められると考えられますから、共済組合からの借入金額やその態様によってはこのようにあえて事前に共済組合からの借り入れだけを弁済することも検討する価値はあるといえます。

ただし、このあたりの判断は難しいものがありますので、必ず弁護士や司法書士と相談の上で行わないといけません。

弁護士や司法書士の助言を受けないで勝手に共済組合からの借り入れだけを弁済してしまうと、裁判所から免責が下りない恐れもありますので十分注意が必要です。

 

最後に

このように、公務員が多重債務に陥っている場合には共済組合から借入をしている人が多く、自己破産の申し立ての際に勤務先の職場に自己破産の事実が知られてしまうのを懸念して自己破産に踏み切れないケースがとても多いように感じます。

ですから、公務員の人で多重債務を抱えている人は、早めに弁護士や司法書士に相談し、共済組合からの借り入れも含めた全ての借金の処理について十分な検討をしておくことが必要といえます。