自己破産の手続き中に引っ越して転居することはできるか?

自己破産を予定している人が意外に気にするのが、自己破産の手続き中に引っ越しをすることができるのか、という点です。

自己破産の最中に引っ越しが必要になる事情があるわけではないのでしょうが、自己破産の手続き中に引っ越しができなくなることを不安がる依頼者は少なくないのが実情です。

では、自己破産の申立を行った場合、引っ越して転居することが制限されたりするものなのでしょうか?

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自己破産の手続中でも原則として引っ越しは制限されない

結論からいうと、自己破産の手続き中であっても引っ越しをして転居すること自体は原則として制限されません。原則として転居による引っ越しは自由です。

なぜなら、憲法で居住移転の自由が全ての国民に保障されている以上(日本国憲法第22条1項)、たとえ自己破産の最中であっても申立人が転居することを法律(破産法)をもって規制することは基本的にできないからです。

【日本国憲法第22条1項】

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

ただし自己破産中の転居には裁判所の許可が必要

前述したように、憲法で居住移転の自由が認められている以上、自己破産の手続き中の転居・引っ越しも基本的に自由です。

ただし、自己破産の申立を行って裁判所が自己破産の「開始決定」を出した後、裁判所が「免責の許可決定」を出してその決定が確定するまでの間に転居する場合には、裁判所の許可が必要とされていますから(破産法第37条1項)、自己破産の手続き中については裁判所の許可がなければ転居・引っ越しをすることはできないことになります。

【破産法第37条1項】

破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない。

もっとも、前述したように憲法で居住移転の自由が認められている以上、自己破産の手続きの進行を妨げたり債権者の利益を損なうような特別の事情がない限り、裁判所は転居を認めることになるのが通常ですから、自己破産の手続き中に転居が認められないケースはあまり考えられないと思います。

(※たとえば、資産隠しを図るため行方をくらませたりする蓋然性が高い場合は転居が許可されないこともあり得ますが、そのような不正がない限り転居は認められるでしょう)

また、自己破産の手続きが「同時廃止」で終了する場合は自己破産の「開始決定」と同時に手続きは「廃止」され、それから1か月程度たてば「免責許可決定」が出されてその数週間後に「免責許可決定」が確定するのが通常ですから、「同時廃止」で処理される限り転居が制限されるのは事実上2~3か月間と極めて短期間に過ぎないのでそれほど支障は生じないといえます。

(※「管財事件」として処理される場合には、資産調査や配当などの手続きが必要となるため「開始決定」が出されて「免責の許可決定」が出されるまで半年から1年以上の期間が必要となりますし、手続きも複雑になることから裁判所が許可を出さないこともあるかもしれません)

このように、自己破産の手続き中の転居・引っ越しには裁判所の許可が必要とされてはいるものの、その許可が認められないケースはあまりないと考えられますので、「自己破産の手続き中に転居ができなくなるかも」と不安になる必要はないのではないかと思います。

※なお、ここでいう「転居」は住民票(住民登録)を移すか移さないかは関係ありません。住民票上の住所を移さなくても、自己破産の手続き中に居所(普段寝食を行っている場所)を移転する場合は裁判所の許可が必要となります。

余談ですが…

なお、このように破産法という法律によって、自己破産の申立人(破産者)が転居することについて裁判所(裁判官)の許可を条件とすること自体が、前述した「居住移転の自由」を規定した憲法第22条の規定に反するのではないかと考えることもできます。

しかし、憲法で保障される国民の権利も「公共の福祉」の範囲内で認められているにすぎませんので(日本国憲法第12条及び13条等)、自己破産の申立人の転居に最低限度の制限を掛けることも自己破産の適正な手続を担保するために必要であり、裁判所の許可が必要とすることも「公共の福祉」の範囲内の制限と考えられることから憲法には違反しないものと解されます。

【日本国憲法第12条及び13条等】

第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ

第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする