自己破産の手続中に受け取るボーナスは裁判所に取り上げられる?

自己破産の手続きを希望する人の職業は様々だと思いますが、一番多いのは何といっても普通の会社員の人ではないかと思います。

自営業者やパート労働者の人が自己破産するケースも比較的多くありますが、収入に余裕があるはずの会社員の人が自己破産するケースも意外と多くあるのが現実でしょう。

ところで、このような会社員の人が自己破産する場合に気になるのが、自己破産の手続き途中にボーナス(賞与)を受け取った場合にそのボーナスがどのように扱われるのか、という点です。

自己破産をする際には、その所有する資産が裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当されるのが一般的ですが、ボーナス(賞与)は比較的その金額が大きいのが通常であるため、そのような高額なボーナスを保有したままの状態で自己破産が認められるのかという点に疑問が生じてしまうからです。

では、実際問題として、自己破産の手続き中にボーナスが支給された場合には、その受け取ったボーナスは具体的にどのように扱われるのでしょうか?

ボーナスも他の財産と同様、取り上げられたりするものなのでしょうか?

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自己破産の開始決定「前」にボーナスが支給された場合

自己破産の申立書を裁判所に提出すると、裁判所の書記官がその申立書をチェックし、不備がなければ裁判所から自己破産の「開始決定」が出されることになります。

自己破産の審理は、この「開始決定」が出されるまでに発生した債務と資産に関してのみ行われることになりますから、自己破産による「免責(※借金の返済が免除されること)」が出された場合はこの「開始決定」が出されるまでに発生した債務だけが免責の対象となり、また、この「開始決定」が出されるまでに築き上げられた資産についてだけが裁判所に取り上げられて売却され債権者に配当されることになります。

そのため、自己破産の「開始決定」が出されるまでに勤務先の会社からボーナス(賞与)を支給された場合には、その受け取ったボーナス(賞与)は債権者の配当に回すために裁判所(破産管財人)によって取り上げられることになるのが原則となります。

もっとも、ボーナス(賞与)は給料と同様に労働者の生活を維持するうえで重要な収入となりますから、そのボーナス(賞与)を受け取った申立人(債務者)の保護も考える必要が生じます。

この点、自己破産の手続きを規定した破産法では民事執行法を準用する形で、その受け取った金額の「4分の3」に相当する金額(ただしその金額が33万円を超える場合は33万円)については債権者への配当原資としないと定めています(破産法第34条)。

したがって、受け取ったボーナスの「4分の3」に相当する金額(ただしその金額が33万円を超える場合は33万円)はそのまま取得することがみとめらますが、残りの「4分の1」に相当する金額(※4分の3した金額が33万円を超える場合は33万円を超える全ての金額)は全て裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるというのが原則的な取り扱いとなります。(民事執行法第152条、民事執行法施行令第2条2項)。

【破産法第34条第3項】

第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。

  1. (省略)
  2. 差し押さえることができない財産(中略)。ただし、同法第132条第1項(中略)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。

(以下、省略)

【民事執行法第152条1項】

次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。

一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権

【民事執行法施行令第2条】

第2項 賞与及びその性質を有する給与に係る債権に係る法第152条第1項の政令で定める額は、33万円とする。

ボーナス(賞与)が銀行の預金口座に振り込まれた後は「ボーナス(賞与)」ではなく「預金」として扱われる

以上のように、自己破産の開始決定が出される「前」に受け取ったボーナス(賞与)については、その4分の3を超える金額(その金額が33万円を超える場合には33万円)の部分が裁判所に取り上げられて債権者に配当されるケースもあるということになります。

もっとも、これはあくまでも給料を受け取る「前」の話であって、ボーナス(賞与)が銀行の預金口座に振り込まれた後はまったく話が異なってきます。

なぜなら、ボーナス(賞与)が銀行の預金口座に振り込まれた時点でその「ボーナス(賞与)」は「預金」になるため、法律上の性質が「賃金債権」から「預金債権」に変化することになるからです。

上記の「4分の3」や「33万円」といった基準はあくまでも「ボーナス(賞与)」としての「賃金債権」の場合の話ですから、銀行の預金口座に振り込まれた時点で「預金債権」に変化した後は「預金債権」の基準で考えなければならないのです。

この点、預金債権については20万円を超える場合は裁判所が取り上げて債権者に配当することになっていますから、「ボーナス(賞与)」として受領した金額の多寡にかかわらず、そのボーナス(賞与)が振り込まれた預金口座に20万円以上の残高が残っている場合には、その預金口座の預金額は全て裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるということになります。

(※なぜ20万円が基準になるかという点についてはこちらのページで詳しく説明しています。→なぜ「20万円」が基準になるのか?

たとえば、自己破産の「開始決定が出される前」に100万円のボーナスが支給された場合で考えると、100万円の4分の3は75万円となり33万円を超えてしまうので「33万円」はその保有が認められますが「33万円」を超える部分、つまり「67万円」は裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるというのが基本的な取り扱いとなります。

したがって、そのボーナスが「現金」で支給された場合には「33万円」については自己破産の申立人が保有することが認められることになります。

しかし、この100万円のボーナスが「銀行の預金口座に振り込まれ」た場合にはその「ボーナスとして振り込まれた100万円の全額」が預金口座に振り込まれた時点で「預金債権」にその法的性質が変更しますのでその「100万円」の全額が裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなります(※この場合、預金口座に振り込まれた時点で「ボーナス」という「賃金債権」が「預金債権」に変化することになりますので、前述した民事執行法の「4分の3」とか「33万円」といった制限は適用されないことになります)。

したがって、仮に自己破産の「開始決定が出される前」に100万円のボーナスが支給された場合には、そのボーナスを「現金」で受け取った場合には「33万円」の保有が認められる一方、「銀行振込」で受け取った場合には1円の保有も認められない、というのが原則的な取り扱いとなります(※注1)。

※注1:ただし、ボーナスが銀行口座に入金されたのが自己破産の開始決定が出された時点に近い場合には裁判所の方でも「預金債権」としてではなく「賃金債権」として処理する場合も多いので、裁判官によっては銀行の預金口座にボーナスが振り込まれた場合であっても取り上げて債権者への配当に充てず、その保有を認めるケースも多いのが実務上の取り扱いです。

自己破産の開始決定「後」にボーナスが支給された場合

自己破産の開始決定が出された「後」にボーナス(賞与)が支給された場合には、そのボーナス(賞与)は全額自由に使用してかまいません。

前述したように、自己破産の手続きはその「開始決定」が出されるまでに発生した債務(借金)と資産(財産)を清算し、免責を認める手続きですから、自己破産の「開始決定」が出された「後」に取得する「資産(財産)」は自己破産の手続きとは切り離して扱うのが基本的な取り扱いとなっているからです。

ですから、自己破産の開始決定が出された「後」に振り込まれるボーナス(賞与)は裁判所に取り上げられることはないと考えてよいでしょう。

最後に

以上のように、勤務先の会社から支給されるボーナス(賞与)は4分の3に相当する部分(33万円を超える場合は33万円)を超える部分が裁判所に取り上げられて債権者に配当されるケースがあり、また、ボーナス(賞与)が銀行の預金口座に振り込まれ、その口座残高が20万円を超えている場合には、受領したボーナス(賞与)の多寡にかかわらず、「預金債権」としてその全額が裁判所に取り上げられることもあるということになります。

もっとも、このような場合であっても、「自由財産の拡張申立」という手続きを取れば裁判所に取り上げられないで済む場合も多いのが実情ですので、受け取ったボーナスを取り上げられたくないという場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、自由財産の拡張など適切な対処を取ることが求められるといえるでしょう。