自己破産すると同居する親の持家も取り上げられてしまうのか?

自己破産をした場合、その所有する資産は自由財産として保有が認められる財産を除き、その全てが裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当されるのが通常の取り扱いです。

自己破産はその負担する債務の返済の全てを免除(免責)する手続きですが、資産を保有したまま免責を認めてしまうと債務者(自己破産の申立人)が利益を得たままで債権者が損失を受けることになり不都合になることから、債務者の債務を免責する前提として、その所有する資産(財産)の清算を行わなければならないとされているからです。

ところで、ここで問題となるのが、親の持家に居住している人が自己破産する場合に、その親の持家が裁判所に取り上げられたりしないかという点です。

親の持家であれば自分の所有物とは言えませんが、その家に居住している以上、裁判所から資産と判断されてしまわないかという点に疑問が生じるからです。

では、自己破産する人が親の持家で親と同居している場合、その親の持家は裁判所に取り上げられたりするものなのでしょうか?

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親の持家が自己破産で取り上げられることはないのが原則

結論からいうと、親の持家に住んでいる状態で自己破産した場合に、その居住している親の持家が裁判所に取り上げられて売却されることは基本的にありません。

なぜなら、憲法で私有財産制が認められている以上(日本国憲法第29条1項)、たとえ親であってもその財産は別個の所有財産と認識すべきであって、子の自己破産手続きで親という別個の私人の財産を処分することはできないからです。

もっとも、次の項で例示するようなケースでは例外的に親の持家が自己破産の手続きで裁判所に取り上げられてしまう可能性もありますので注意が必要です。

例外的に親の持家が裁判所に取り上げられる場合

(1)親の持家が自分の借金の担保に入っている場合

親の持家が自分の借金の担保に入っているような場合には、その借金の債権者がその担保権を実行し競売に掛ける場合がありますので、そのような場合には親の持家が取り上げられるケースもあるといえます。

(※ただし、この場合は自己破産の手続きとして取り上げられるのではなく、担保権の実行として取り上げられることになります)

たとえば、貸金業者Aから500万円を借りる際に、親がその借金の物上保証人となって親の所有する持家に抵当権を設定しているような場合です。

このような場合には、その債権者である貸金業者Aは債務者から返済が受けられない場合にその設定している抵当権を実行して競売で売却し、売却代金を借金の返済に充てることができます。

したがって、このように親の持家に自分の借金の担保権が設定されている場合には、親の持家が競売に掛けられる結果、親の持家を取り上げられてしまうことは避けられないといえます。

(2)相続が発生して親の持家の持ち分を取得している場合

親の持家に相続が発生し、自分がその相続人として親の持家の持ち分を取得しているような場合にも、その「親の持家」が裁判所に取り上げられる可能性があります。

例えば、父、母、姉、自分の4人家族で「父」の名義となっている「父の持家」に居住していて、父が死亡した後に自己破産の申し立てをするような場合が考えられます。

このような場合では、自分が居住している「親(父)の持家」は、父が死亡することによりその相続人である母と姉と自分がそれぞれ「2分の1」「4分の1」「4分の1」の割合で相続することになりますから、「親の持家」であった自宅(の持ち分4分の1)が「自分の持家」になってしまいます。

そのため、自己破産の手続きではその相続した「4分の1」の自宅の所有権について「資産」と判断されることになりますので、その「4分の1」の持ち分が裁判所に取り上げられる可能性があります。

もちろん「4分の1」というのは観念上の数値であって自宅を4分の1に切り分けることはできませんから、自己破産の手続きで裁判所が取り上げる場合には、他の相続人である母や姉に対して適正価格でその「4分の1」の持ち分を購入するように協議したり、その「4分の1」の価格の分だけを自己破産の申立人(自分)に積み立てさせてそのお金を債権者に配当させるなど、適宜な方法を採ると思いますが、このように、相続が発生している場合には「親の持家」であっても裁判所に取り上げられる可能性があるということは認識しておいた方が良いでしょう。

(3)自分が購入した家を便宜上「親」の名義にしているだけの場合

自分が購入した家を、便宜上「親」を所有権者として登記しているだけのような場合にも、「親の持家」が自己破産の手続きで裁判所に取り上げられることがあります。

自分の資金で購入した自宅であれば本来は「自分」を所有権者として登記しなければなりませんが、節税や資産隠しなどの目的で「親」などを名義人として登記しているケースがあります。

このようなケースでは形式的には「親」が所有権者となっていますが、実質的な所有者は自己破産をする「自分」となりますので、裁判所や破産管財人が調査したうえで「名義は親になっているが自己破産の申立人本人の資産である」と認定することになるでしょう。

(このようにしなければいくらでも自己破産者が資産隠しをできるようになり不都合な結果となってしまうからです)

ですから、実質的な所有者が自分であるにもかかわらず、単にその名義人が「親」になっているような「親の持家」がある場合には、自分が自己破産する際に裁判所に取り上げられることもあると考えておいた方が良いと思います。

同居していなくても同じ結論になる

なお、上記では主に親の持家に同居している場合を想定して説明していますが、上記の結論は親の持家に同居していない場合であっても全く変わりません。

仮に親の持家に同居していない場合であっても、親の持家に自分の借金の担保権が設定されていたり、親の持家に相続が発生していたり、親の持家の実質的な所有者が自分であったりする場合には、その「親の持家」が裁判所に取り上げられてしまう可能性はあると考えられますので注意が必要です。