自己破産は「逃げ得」が間違っている理由

自己破産の手続きに否定的な意見を持つ人の中には「自己破産して逃げ得することは許されるべきではない」と声高に主張する人がいます。

この点、確かに自己破産すると借金の返済を免除してもらうことができるのですから「逃げ得」という側面は否定できないかもしれません。

しかし、本当に「逃げ得」と言って良いかは疑問です。

なぜなら、そもそも自己破産の手続きは債務者に「逃げ得」をさせないために作られた制度だからです。

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自己破産は債務者の保有する資産(財産)を取り上げる制度

自己破産と聞くと、借金の返済ができなくなった債務者の負債を免除する手続きという側面が強調されがちですが、実際はそうではありません。

確かに、自己破産の申立がなされると債務者である申立人は借金の返済が免除されることになりますが、そのためにはその保有する資産(財産)が全て裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当されるという清算手続きを経る必要があります(破産法第1条)。

【破産法第1条(目的)】

この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

そのため、債務者としても自己破産で債務の返済が免除される代わりに保有する資産(財産)を失うのは避けられないのが現実ですから、借金を逃れるという「得」をしているだけではないことがわかります。

ですから、自己破産の手続きは債務の返済が免除されることで債務者が返済しなければならない債務から「逃げ」ることができ「得」をする手続きであるものの、その反面、所有する資産(財産)を失うことで「損」をする面も有していることになりますから「逃げ得」という言葉は適当ではないといえます。

自己破産は債務者に「逃げ得」をさせないための手続き

一般の人はあまり知らないようですが、「破産」の手続きは債務者自身が申立をするだけでなく、債権者の方から強制的に債務者の破産を申し立てすることも可能です(破産法第18条1項)。

【破産法第18条1項】

債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる

「自己破産」という言葉は法律上の言葉ではなく、債務者が自分自身で破産の申し立てをすることから「”自己”破産」と呼ばれているだけであって、破産手続き自体は債権者の側から申立てることも可能なのです。

(※たとえば、AさんがBさんにお金を貸している状況でBさんが他にも借金があってAさんから借りた借金を返せない状況にある場合は、Bさんが破産の申し立てをすることもできますが、債権者であるAさんもBさんの破産手続きを申立てることが可能となります)

なぜこのように債権者からの破産申し立てが認められているかというと、債務者に「逃げ得」をさせないようにするためです。

もしも自己破産の手続きがなかったら、「払いたくても払えないんですよ~」とのらりくらりと返済から逃れ続ける債務者から資産(財産)を取り上げることができません。

また、仮に他の債権者が先に差押えをしてしまった場合には、みすみす債務者の資産(財産)を独占されてしまうのを見過ごすしかなくなってしまうでしょう。

しかし、債権者の側から債務者の自己破産を申し立てすることができれば、債務者が保有する資産(財産)を破産管財人の権限によって回収し、債権者に平等に分配することが可能になりますから、債権者としても債務者を破産させるメリットは十分にあるわけです。

ですから、破産手続きは債務者を救済するためだけに存在すると思われがちですが、立場の弱い債権者を保護する意味もありますので、破産の手続きは債務者が「逃げ得」になる一方で、債務者に「逃げ得」を許さないための手続きでもあるということが言えます。

最後に

以上のように、自己破産の手続きは債務者を借金から解放するための手続きではありますが、貸付金の回収が出来なくなった債権者を保護するための手続きであるということが言えます。

ですから、自己破産は「逃げ得」というのは必ずしも正しいとはいえません。

むしろ債務者に「逃げ得」を許さないようにするための手続きでもあるという認識は、もう少し一般の人に広がっても良いのではないかと思います。