自己破産すると年金も取り上げられるの?

最近では高齢になったも借金を重ねる人も少なくないようですが、高齢者が自己破産する場合に気になるのが、自己破産すると年金も取り上げられてしまうのか、という点です。

自己破産の手続きは支払いができなくなった負債(借金)の返済を免除(免責)してもらう手続きですが、その前提として債務者が保有する資産(財産)は自由財産として保有が認められるものを除いてすべて裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則ですので、給付を受けている年金も取り上げられてしまうのではないか、という不安が生じてしまうのです。

では、実際の自己破産の手続きでは、支給される年金も裁判所に取り上げられてしまうのでしょうか?

年金は老後の生活を維持していくうえで必要不可欠な資金であって、それを取り上げられてしまうと生活が立ち行かなくなる恐れがあるため問題となります。

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自己破産の手続における「年金」の取り扱いは、その年金が「支給される前」か「支給された後」かによって異なる

自己破産の手続きで申立人の受給する年金が裁判所に取り上げられてしまうかは、その受給する年金が「支給される前」か「支給された後」かでその扱いが異なりますので、以下それぞれ別個に説明していくことにします。

(1)年金が「支給される前」

年金が「支給される前」に自己破産の申立を行い、裁判所から自己破産の開始決定が出された場合には、その開始決定が出された時点で未だ支給されていない年金については自己破産の手続きにおいて裁判所に取り上げられることはありません。

なぜなら、年金は国民年金であろうと厚生年金であろうと、その受給する年金の全額が差押えの対象とすることが禁止されていいますが(国民年金法第24条、厚生年金保険法第41条1項)、自己破産の手続きでは債権者への配当に充てるため裁判所が取り上げる財産(※法律上このような財産は「破産財団」と呼ばれます)には「差し押さえることができない財産」は含まれないものとされているからです(破産法第34条3項第2号)。

【国民年金法第24条】

給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない(但書省略)。

【厚生年金保険法第41条1項】

保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない(但書省略)。

【破産法第34条第3項】

第1項 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(中略)は、破産財団とする。
第2項(省略)
第3項 第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない
1号(省略)
2号 差し押さえることができない財産(省略)。

(以下、省略)

したがって、年金についてはそれが国民年金であっても厚生年金であっても「差し押さえることができない財産」として自己破産の手続きで裁判所が取り上げて債権者への配当に充てることができませんから、自己破産をしたとしても「支給される前」の年金については自己破産の手続き上で取り上げられることはないといえます。

(2)年金が「支給された後」

(1)で前述したように年金が「支給される前」の段階では、受給する年金はその全額「差押えることができない財産」として自己破産の破産財団には組み込まれないことになりますから、自己破産の手続き上で裁判所に取り上げられることはありません。

しかし、年金が「支給された後」は扱いが異なります。

なぜなら、年金が「支給される前」であればその年金は「年金支払請求権」という「国や厚生年金保険の実施機関に対する請求権」であることから(1)で説明したような扱いになりますが、その年金がいったん支給され年金受給者の手元に給付された場合には、その給付された時点で、その年金を「現金」として受け取っている場合には「有体物としての現金(紙幣・通貨)」に、その年金を「銀行振り込み」で受け取っている場合には銀行等に対する「預金の払い戻し請求権(預金債権)」という債権に法律上の性質が変化してしまうからです。

この点、自己破産の手続きでは「現金」については99万円までは自由財産として保有が認められる一方、99万円を超える部分は全て裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることになっていますので、受給した年金と元々保有していた現金の合計額が99万円を超えてしまう場合には、その超える部分が「年金」としてではなく「現金」として裁判所に取り上げられてしまうことになります。

また、「預金債権」については20万円以上預金残高がある場合はその全額が裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることになっていますから、年金が振り込まれた銀行口座の預金残高が20万円を超える状態で自己破産の開始決定が出された場合には、その預金口座に預けられている年金を含めた預金額の全額が「預金」として裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることになってしまいます。

(※なぜ20万円が基準となるかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?

このように、年金が「支給された後」はその支給された年金は法律上もはや「年金」ではなく、単なる「現金」や「預金」として扱われることになりますので、(1)の場合とは異なり、自己破産の手続きにおいて裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることもあるということになります。

▶ 銀行預金は自己破産の申立前に全額引き出すべきなのか?

※ただし、年金は年金生活者が健康で文化的な最低限度の生活を営む上で最低限必要なものであることから、実務上は「預金」に20万円以上ある場合であってもそれが年金である場合には裁判官もその点を考慮して債権者への配当に回さない取り扱い(黙示で自由財産の拡張を行っているような感じ)にしていることが多いので、よほど「現金」や「預金額」が高額にならない限り裁判所に取り上げられることはないものと考えられます。

自己破産の「開始決定が出された後」に受給する年金は取り上げられることはない

以上で説明したように、自己破産の手続きでは年金が「支給される前」であれば裁判所に取り上げられることはありませんが、年金が「支給された後」においては、その支給された年金の状態が「現金」として保管されている場合は「現金」の、「銀行預金」として「預金口座」に保管されている場合には「預金」の基準として99万円または20万円の基準によって裁判所に取り上げられるか否かの判断が決まることになりますから、年金が「支給される後」の状態や金額によってはその支給を受けたお金が裁判所に取り上げられる可能性はあるということが言えます。

もっとも、これはあくまでもその年金が自己破産の「開始決定」が出される「前」に支払期日を迎えるものについての話に限定されます。

自己破産の手続きは自己破産の「開始決定が出される前」までの負債(借金)と資産(財産)を清算する手続きですから、自己破産の「開始決定が出された後」に支払期日が到来する年金についてはその全てがその自己破産の手続きから切り離して扱われることになります。

したがって、自己破産の「開始開始決定」が出された「後」に支給される年金については現金として受け取ろうが預金口座への振込で受け取ろうが、その全額を自由に使うことができ、裁判所に取り上げられることは一切ありませんので誤解のないようにしてください。