自己破産すると医療保険やがん保険は解約させられるの?

自己破産の申立を行った場合には、負担する全ての借金の返済から逃れることができますが、その代わりに所有する全ての財産が裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に分配(配当)されるのが原則的な取り扱いとなります。

自己破産の手続きは、本質的に清算手続きの側面を有していますから、申立人の全ての財産を借金の弁済に充てても完済できない負債に限って、裁判所が免責(借金の返済が免除されること)を出すことになるからです。

たとえば、「生命保険」は解約すると一定の解約返戻金が払い戻されるのが通常ですので、自己破産の申立人が生命保険に加入している場合には、手続き上で破産管財人が強制解約し、払い戻された解約返戻金を債権者に分配することになるのが実務上の取り扱いとなります。

ところで、「生命保険」は被保険者が死亡した場合に保険金が支払われるものですので、仮に自己破産の手続きで強制的に解約されたとしても、それによって受ける不利益は解約返戻金を受け取ることができなくなる程度しかありません。

しかし、「医療保険」や「がん保険」などの保険は、疾病に罹患した場合に入院費用などを補完する役割があり、保険の契約者が存命中に保険金の支給を受けることができる性質のものですから、仮に自己破産の手続きで強制解約されてしまうと、解約返戻金を失うだけでなく、万が一病気に罹患したり癌を発症した場合などに入院費等の支給が受けられなくなって多大な不利益を受けてしまう恐れもあります。

では、自己破産の申立を行った場合、医療保険やがん保険なども強制解約の対象となってしまうのでしょうか?

医療保険やがん保険は、生命保険とは異なり、契約者が存命中に入院費等の支給を受けることができる性質を有しており、契約者が健康な生活を送るために不可欠な面もありますから、生命保険と同様に強制解約されなくても良いように思えるため問題となります。

広告

医療保険やがん保険も強制解約されるのが原則

結論からいうと、医療保険やがん保険など、契約者が存命中に入院費などの保険金を受け取れる性質の保険であっても、その契約している保険に解約返戻金がある限り、自己破産の申立を行った場合は強制解約の対象となります。

なぜなら、解約返戻金という資産価値がある限り、裁判所が換価して債権者に分配し、免責によって生じる債権者の経済的な損害を少しでも軽減させる必要があるからです。

この点、医療保険やがん保険などを強制解約の対象としてしまうと、自己破産の申立後に病気やがんにかかった場合、医療保険やがん保険などの保険金を受け取ることができずに返って経済的に困窮してしまい、経済的な再生が図れなくなる恐れがありますから、強制解約の対象としないで自己破産の申立人にそのまま保有させても良いようにも思えます。

しかし、このように自己破産の申立人の経済的な再生に有益な性質を持っている保険であっても、債権者からの借り入れによって保険料を支払ってきたことに変わりないのですから、自己破産が清算手続きの性質を有している以上、例外的な取り扱いをすべきではありません。

また、仮に医療保険やがん保険などを特別扱いして強制解約の対象としないとなれば、資産隠しの目的のために医療保険やがん保険などに加入して自己破産後に解約返戻金を受け取るようなケースも出てくる可能性があり不都合でしょう。

以上のように、たとえ医療保険やがん保険など、自己破産者の経済的な再生に不可欠といえるような保険であっても、解約返戻金がある限り、自己破産の手続きにおいて裁判所(破産管財人)による強制解約の対象から除外されないということになるのです。

解約返戻金が20万円を超えない場合は解約しなくても良い

前述したように、医療保険やがん保険などであっても、自己破産の手続きでは裁判所(破産管財人)に強制解約されてしまうのが原則です。

しかし、医療保険やがん保険があれば全て裁判所(破産管財人)に強制解約されてしまうわけではありません。

実務的には、(裁判所によっても異なりますが)解約返戻金が20万円を超えない場合には、強制解約の対象とはせず、自己破産者がそのまま契約を継続していくことも認められています。

なぜ「20万円」が基準となるかというと、破産管財人に対する報酬の基準額が概ね20万円とされているからです(※ただし裁判所によって若干異なる場合があります)。

裁判所に自己破産の申立を行った場合、全く換価する資産がない場合は「同時廃止事件」として、換価する資産がある場合は「管財事件」として振り分けられますが、「管財事件」に振り分けられた案件では裁判所から破産管財人が選任され、自己破産の申立人に不正がないかチェックしたり、売却できる資産がある場合は売却しその売却代金を債権者に分配(配当)したりすることになります。

この破産管財人は裁判所の管財人名簿に掲載された弁護士の中から選任されることになりますが、破産管財人もボランティアではありませんので、自己破産の申立人がその報酬を支払わなければなりません。

破産管財人の報酬は裁判所が指定することになりますが、その金額はほとんどの裁判所が最低でも20万円を基準としています。

しかし、仮に裁判所が申立人に20万円を支払わせて破産管財人を選任したとしても、医療保険やがん保険などの解約返戻金が20万円に満たない場合には、いわゆる費用倒れになってしまいます。

(※このような場合には、破産管財人を選任せずに、破産管財人の費用である20万円を債務者に支払わせて債権者に分配すればよいからです)

そのため、裁判所では、解約返戻金が20万円を超えない医療保険やがん保険は強制解約の対象とせず、申立人にそのまま保有させる実務上の取り扱いをしているのです。

なお、この「解約返戻金が20万円を超えない」とは、保険会社1つの解約返戻金が20万円を超えないという意味ではなく、生命保険など全ての保険の解約返戻金を合計して20万円を越えないという意味ですので、医療保険やがん保険の1つの解約返戻金が20万円を超えていなかったとしても、他の保険の解約返戻金と合計して20万円を超える場合には、強制解約の対象となりますので注意が必要です。

ただし、他の財産と合計して50万円を超える場合は解約の対象となる

前述したように、医療保険やがん保険などの解約返戻金が20万円を超えない場合には、裁判所(破産管財人)から強制解約されることはありませんが、他の財産と合計して50万円を超える場合には、裁判所(破産管財人)に強制解約されて解約返戻金が債権者に分配(配当)されることになるのが通常です。

他の財産と合計して50万円を超える場合とは、たとえば医療保険やがん保険などの解約返戻金が10万円程度しかなくても、他に40万円を超える貴金属や車などがあるような場合です。

このような場合では、医療保険やがん保険だけを解約しても管財人費用の20万円に足りませんから、前述したように費用倒れになってしまいますが、他の財産と合計して50万円を超えるような場合には、他の財産も売却することによって50万円の配当原資を作ることができますので、債権者に分配(配当)する返済原資が破産管財人の管財費用を上回ることになり、費用倒れに終わることにはなりません。

そのため、多くの裁判所では、他の財産と合計して50万円を超える場合には、たとえ医療保険やがん保険の解約返戻金が20万円を越えない場合であっても、強制解約の対象として処理する取り扱いにしているところもありますので注意が必要でしょう。

自由財産の拡張手続きを行うことが必要な場合もある

以上のように、医療保険やがん保険の解約返戻金が20万円を超える場合であったり、他の財産と合計して50万円を超えるような場合には、裁判所(破産管財人)に強制解約されて解約返戻金が債権者に分配(配当)されることになるのが通常です。

もっとも、仮にこのような場合であっても、裁判所に「自由財産の拡張の申し立て」をすることによって強制解約を逃れることも可能です。

「自由財産の拡張申立」とは、本来であれば債権者に分配(配当)されるべき財産であっても申立人に特別な事情がある場合には、裁判所(破産管財人)が取り上げて債権者に分配(配当)するのではなく、申立人にそのまま保有することを認めてもらうよう裁判所に申立を行う手続きをいいます(破産法第34条4項)。

【破産法第34条4項】

裁判所は(中略)、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。

自由財産の拡張の申し立てが全ての場合に裁判官に認められるわけではありませんが、債務者の生活や資産の状況によっては自由財産の拡張が認められ、本来であれば強制解約の対象となる医療保険やがん保険であっても契約を継続することができる場合も有りますので、どうしても強制解約されたくない保険がある場合には利用を検討してみるのも良いでしょう。

もっとも、この自由財産の拡張については、自己破産の申立を依頼する弁護士や司法書士が必要な範囲で申立を行うことになりますので、弁護士や司法書士との打ち合わせの際に、医療保険やがん保険の継続が必要な理由を十分に説明しておく必要があるといえます。