自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?

自己破産の申立を行った場合、裁判官がその案件を「同時廃止」案件として処理するか「管財事件」として処理するかを決定し、事件を振り分けることになります。

自己破産の案件が「同時廃止」で処理される場合には、自己破産の「開始決定」と「同時」にすぐに手続きを終了させる「廃止決定」が出されることになりますから、早ければ申立てから3か月程度で手続きが終了するため申立人の負担はほとんどありません。

一方、案件が「管財事件」で処理された場合は、裁判所から選任された破産管材人による詳細な調査が行われ、債権者への説明や配当が実施されることになりますから、手続きが終了するまで早くても半年以上、長ければ1年以上の期間を擁するとともに、破産管財人への報酬(管財費用※最低でも20万円以上)も必要になることから、申立人が受ける負担も甚大になります。

では、具体的にどのような態様が申立人に存在すると自己破産が「管財事件」として処理されることになるのでしょうか?

自己破産の申し立てが「管財事件」として処理されると、期間的にも費用的にも申立人に大きな負担が発生してしまうことになるため問題となります。

広告

自己破産が管財事件として処理される代表的なケース

裁判所に自己破産の申立を行った場合に、その案件が「管財事件」として処理される代表的なケースとしては次の6つのケースが挙げられます。

(1)現金以外の資産が20万円以上ある場合

自己破産の申し立てをする際、現金以外の財産(資産)が20万円以上ある場合には、原則として「管財事件」として処理されるのが一般的です。

「現金以外の財産(資産)が20万円以上ある場合」とは、たとえば売却すれば20万円以上の値段が付く土地や建物などの不動産、自動車やバイク、貴金属などを所有していたり、解約すれば20万円以上の解約返戻金が払い戻される生命保険等に加入していたり、銀行の預金口座に20万円以上の残高が残っているような場合をいいます。

このように、「20万円以上の資産がある場合」には、その資産を裁判所が取り上げて債権者に配当をする必要が生じますが、そのためには破産管財人を選任して申立人に資産調査を行わせたうえで債権者への配当手続きを実施する必要がありますので、その事案を「管財事件」として処理する必要があるわけです。


【なぜ20万円が基準となるのか?】

なお、なぜ「20万円」が基準になるかというと、ほとんどの裁判所が破産管財人の報酬(管財費用)の最低金額を20万円と設定しているからです。

破産管財人は裁判所に備え付けられている管財人名簿に記載された管財人候補者(ほとんどが弁護士)から裁判官が指名することになりますが、破産管財人(弁護士)もボランティアではありませんので管財手続きを処理してもらうため自己破産の申立人がその破産管財人に報酬を支払わなければなりません。

しかし、自己破産の申立人が20万円に満たない資産(財産)しか保有していないにもかかわらず「管財事件」として処理し破産管財人を選任してしまうと、「20万円に満たない資産を債権者に配当するために20万円以上の費用を支払って破産管財人を雇わなければいけない」ことになりますから、いわゆる「費用倒れ」となって不都合な結果となってしまいます。

(※このような場合、「管財事件」として処理せずに申立人に20万円を積み立てさせてそれを債権者に案分弁済する方が債権者の利益になります)

このような理由があるため、自己破産の申立人が保有する資産(財産)が20万円を超える場合にだけ「管財事件」として処理することにしているのです。

なお、「現金以外」としているのは、自己破産の手続きでは「99万円」までの現金は自由財産として保有することが認められているからです。

そのため、「99万円」を超える現金がある場合には、当然その超える部分について債権者への配当が必要になりますから、破産管財人が選任される「管財事件」として処理されることになります。


(2)ギャンブルや浪費などがある場合

自己破産の申立人にギャンブルや浪費(風俗営業法関連サービスの利用も含む)を繰り返した事実がある場合にも、「管財事件」として処理される可能性が高くなります。

なぜなら、浪費やギャンブルなどの射幸行為によって著しく財産を減少させる行為は「免責不許可事由」に該当するのが原則になっているため、その免責不許可事由の有無や程度などを破産管財人に調査させなければならないからです。

自己破産の手続きにおいては申立人が所有する資産(財産)は自由財産として保有が認められる財産を除いてすべて裁判所に取り上げられて債権者への配当に回されるのが原則であると考えられますが、浪費やギャンブル等で無駄に財産を減少させられてしまうと債権者が受け取る配当が目減りしてしまい、貸したお金を返してもらえないだけでなく配当も十分に受け取れないこととなり債権者が二重の損害を受けるという不都合な結果となってしまいますから、浪費やギャンブルなどがある場合は「免責不許可事由」として免責(※借金の返済を免除すること)を与えない取り扱いにされています(破産法第252条第1項4号)。

【破産法第252条第1項】
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~3号(省略)
第4号 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。

一方、そのような免責不許可事由があるとしても、ギャンブルや浪費等がある人を一律に免責を不許可してしまうと、自己破産でも救済されない多重債務者が増えてしまい不都合な結果となてしまいますから、何らかの救済も必要です。

そのため、破産法では「裁量免責」という制度を設けて、ギャンブルや浪費などの免責不許可事由がある場合であっても裁判官の「裁量」で特別に免責を認めることができると定めているのですが(破産法第252条第2項)、裁判官がこの「裁量免責」を認めるためには申立人がギャンブルや浪費などの免責不許可事由をするに至った「経緯その他一切の事情」を十分に調査する必要が生じます。

【破産法第252条第2項】
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

以上のような理由から、ギャンブルや浪費などの事実が過去にある場合には、破産管財人に十分な調査をさせる必要があるため、その案件を「管財事件」として処理するケースが多いのです。

(3)偏波弁済がある場合

特定の債権者に対する「偏波弁済」がある場合にも、「管財事件」として処理される可能性が高くなります。

「偏波弁済」とは、自己破産の申立前に特定の債権者に対する債務だけを弁済してしまう行為をいいます。

たとえば、自己破産の手続きから除外することを目的に勤務先や親族からの借金だけを申立前に弁済してしまうような場合が代表的です。

▶ 自己破産で一部の債権者だけを除外することはできるか?

このような偏波弁済を認めてしまうと、偏波弁済を受けた債権者に弁済された金額だけ債務者(申立人)の資産が減少してしまう結果となり、弁済を受けられない他の債権者が不利益を受けてしまいますから、このような偏波弁済は「免責不許可事由」として禁じられています(破産法第252条第1項3号)。

【破産法第252条】
第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~2号(省略)
第3号 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
(以下、省略)

そして偏波弁済が免責不許可事由に該当する以上、前述したように裁判官による裁量免責の是非を判断するために破産管財人を選任して慎重に調査をすることが必要となりますから、このように偏波弁済がある場合にも「管財事件」として処理される可能性が高くなるといえるのです。

(4)個人事業主の場合

自己破産の申立人が個人事業主の場合にも「管財事件」として処理される可能性が高くなります。

なぜなら、個人事業主が自己破産の申立を行う場合、その負債は事業資金として借り入れているケースが多く必然的に高額になることが多くありますし、また事業に必要な高額な機材などを所有していることも多く資産も大きくなるケースも多く、また、商品や代金などの支払いがなされないなど顧客の一般市民が債権者となってしまうケースも少なくないため、破産管財人を選任してより慎重に債権や資産の調査を行う必要があるからです。

このように、個人事業主が自己破産する場合には、自己破産の免責によって不利益を受ける被害者的な立場の債権者が広範囲におよび、また、資産や負債も高額になることが予想されるため、破産管財人を選任する「管財事件」として処理されるケースが多いのです。

もっとも、ごく小規模の個人事業主で、債務も大きくなく、目ぼしい資産もないことが明らかなようなケースでは、「同時廃止」に振り分けられ簡易な手続きで処理されることもありますのでケースバイケースで判断するほかなさそうです。

(5)会社代表者で会社を清算(破産)させない場合

会社代表者(代表取締役)や事実上会社の経営者となっている会社役員(取締役や監査役)が、その経営する会社を「清算」や「破産」させないで放置したまま「個人」としてだけ自己破産の申立を行う場合には、その個人の自己破産手続きは「管財事件」として処理されるのが通常です。

なぜなら、会社の経営者がその経営する会社の「清算」や「破産」手続きをしないで放置したまま「個人」としてだけの自己破産を認めてしまうと、「個人の所有する資産」を「会社の資産」ということにして裁判所に取り上げられることを逃れたりという「資産隠し」の手段として利用されてしまう恐れがあるため、破産管財人を選任して十分な調査を行わせる必要性があるからです。

会社代表者など会社の経営者が「個人」として自己破産する場合は、経営する会社の負債を会社代表者(経営者)である自分自身で保証したり連帯保証人になっていてその返済ができない状況に陥っているケースがほとんどですから、その経営している会社自体が既に破たんしているのが多いのが実情です。

そのため、本来であればその経営する「会社の破産手続」をして「会社の清算手続き」させたうえで、または会社の破産・清算手続きと同時並行で「個人の破産手続」をしなければならないのですが、「会社の破産手続」や「会社の清算手続」をしようとすると代理人になってもらう弁護士に支払う費用も100万円前後から数百万円規模になることも多く、その費用が捻出することができないため、会社はそのまま放置して会社代表者(経営者)個人としてだけ破産するというケースは少なからず存在しています。

しかし、そのような事情があったとしても無条件に「個人」としての自己破産だけを認めてしまうと、資産隠しの温床になってしまうことから、裁判所では会社経営者が会社の破産・清算手続きをせず会社を放置したまま個人としてだけ自己破産する場合には、「管財事件」として扱うことを必須にして破産管財人に詳細な調査をさせる取り扱いにしている裁判所が多いのです。

ですから、会社代表者(経営者)がその経営する会社の破産・清算手続きをせずに会社を放置したまま個人としてだけ自己破産する場合には、まず間違いなく「管財事件」として処理されると考えておいた方が良いと思います。

※ただし、裁判所によって会社代表者(経営者)が個人として自己破産する場合にはその経営する会社自体も破産・清算手続きをしない限り個人の自己破産の申し立ても受理していない方針にしている裁判所もありますので注意が必要です。
※また、私が過去に申立を行った会社代表者(経営者)個人の自己破産のケースでは、会社の破産・清算手続きをしない代わりにその経営する会社に資産が全くないといことを説明する資料の提出をすることで「同時廃止」で処理された案件もありますので、裁判官の判断によっては会社経営者が会社を放置したまま自己破産する場合であっても「管財事件」として処理されないケースもないことはないといえます(※ただし最近は裁判所の審査も厳しくなっているので現在ではまず間違いなく管財事件になると思います)。

(6)前回の破産・再生申立から7年を経過しない間に自己破産の申立がなされた場合

前回の自己破産や個人再生の手続きを終了してから7年が経過する前に再度自己破産の申立を行った場合には、原則として「免責不許可事由」に該当することになります(破産法第252条第1項10号)。

【破産法第252条】
第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~9号(省略)
第10号 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(中略)第239条第1項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第235条第1項(中略)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
(以下、省略)

自己破産に回数制限はあるのか?

したがって、このように免責不許可事由に該当する場合は、前述したように裁判官から「裁量免責」を受けるしかありませんから、裁判官による裁量免責の是非を判断するために破産管財人を選任して慎重に調査をすることが必要となる結果、「管財事件」として処理される可能性が高くなるといえます。

最後に

以上はあくまでも代表的なケースを挙げているだけですので、これら以外にも「管財事件」として処理されるケースは多くありますので、上記にあたらなければ「同時廃止」で処理されると安易な誤解をしないように注意してください。

なお、そもそも破産法では自己破産の手続きは本来「管財事件」として処理するのが原則で、「同時廃止」で処理されるのはあくまでも例外的なケースとして規定されており、実務ではその原則と例外が逆転してしまっているだけに過ぎませんので、今後は原則に立ち返って管財事件として処理されるケースが増えてくることも予想されます。

ですから、自分が管財事件として処理されるかどうかを事前に憂うよりも、早めに弁護士や司法書士に相談し、管財事件として処理されないためにはどうすれば良いか、また、仮に管財事件として振り分けられた場合にはどのように対処して管財人の調査に答えていくかという点を十分に精査して申立に備えることが大切なのではないかと思います。